「人の樹」村田喜代子著

公開日: 更新日:

 10万年も昔からサバンナに生えていたアカシアは、強烈な紫外線で仲間を失い、たった一本生き残った。砂丘を越えて転がってきた草の玉、タンブルウィードは「ずうっとここに張り付いているのね」とあざわらった。アカシアの根元が干からびかけた頃、瀕死のスナネズミが木陰にたどり着いて「あたしには帰る所がない」と言う。アカシアは「わたしの足元でお眠り」と言い、ネズミが死んだ後、その亡きがらを根で優しく巻いてやった。そして根の先でネズミの体液を吸った。何百年ぶりにありついた貴重な養分だった。(「孤独のレッスン」)

 樹を主役に不思議な物語が展開する18編の短編集。(潮出版社 1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし