著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「名もなき風たち」はらだみずき著

公開日: 更新日:

 武井遼介が小学6年生の時点から始まった「サッカーボーイズ」シリーズは、とりあえず中学を卒業するまでの全5作で完結した。それを第1期とするなら、本書は第2期の開幕を告げる新シリーズの第1作である。主人公は高校1年になった武井遼介だ。

 遼介が入部したのは関東の強豪サッカー部で、1年生だけでも約50人。その1年生チームでも遼介はポジションを確保できない。サッカーが遼介よりもっとうまいやつはたくさんいるのだ。

 小学校、中学校まではそこそこやっていた遼介も、強豪サッカー部に入ってみると無名の高校生なのである。そういう日々の中で、どういうふうにサッカーに向き合っていくのかを、本書は丁寧に描いていく。

「サッカーボーイズ」シリーズの第1作「再会のグラウンド」を覚えている読者なら、この作家がここまでうまくなっていることに驚かれるだろう。勝者だけが主役なのではない。脇役たちもまた、それぞれの人生においては主役なのである。その厳しい現実と、希望と夢を、はらだみずきはくっきりと描いていく。地味な話ではあるけれど、奥が深いと言い換えてもいい。

 これまでの「サッカーボーイズ」シリーズを未読の方は、この第2期の開幕から読み始めればいい。そして本書が面白ければ、第1期にさかのぼっていけばいい。類いまれなスポーツ青春小説がいま目の前にあるのだ。(KADOKAWA 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし