北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「タイムマシンでは、行けない明日」畑野智美著

公開日: 更新日:

 高校生のあなたが初めてのデートの日、初恋の相手が目の前から永遠に消えた、とする。高校生のあなたは大学生になり、大学院に進み、初恋の人をまだ忘れられない。そのときにもしも、タイムマシンがあったらどうする? 過去に戻って、あの日に戻って、もう一度最初からやり直したいと思わないだろうか。本書の主人公丹羽光二は、かくて過去に戻っていく。

 作者の畑野智美は「国道沿いのファミレス」で小説すばる新人賞を受賞した作家で、「夏のバスプール」「海の見える街」など、青春小説に定評がある。つまりSF作家というわけではない。そういう作家がタイムトラベル小説を書くのかと驚かれる読者もいるかもしれないが、畑野智美は2年前に「ふたつの星とタイムマシン」という連作集を出している。

 実は本書と、その「ふたつの星とタイムマシン」(ちょうど文庫化されたばかりだ)は登場人物がダブっているだけでなく、互いを補っていたりするから、こういう過去があったのかとか、いろいろ発見があって、併せて読むと大変に面白い。念のために書いておくと、どちらを先に読んでもいい。

 タイムトラベル小説は数多く、近年ではスティーヴン・キング「11/22/63」という超傑作がある。我が国にも広瀬正の名作「マイナス・ゼロ」という傑作があるが、そういうタイムトラベルものが好きな方に、ぜひ本書をお薦めしたい。(集英社 1900円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  2. 2
    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

  3. 3
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  4. 4
    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

  5. 5
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  1. 6
    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

  2. 7
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  3. 8
    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

  4. 9
    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

  5. 10
    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う

    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う