「さよならの力」伊集院静著

公開日: 更新日:

 ベストセラーエッセー「大人の流儀」シリーズ最新刊の本書は、人生で避けては通れない別離がメーンテーマ。

 著者は、20代で17歳だった弟を、30代で27歳だった前妻を失った。悲しみや憤りから、すさんだ精神状態に陥った後、その動揺は、なぜ自分だけがこんな目に遭うのかという感情になり、慰めの言葉さえ腹立たしく感じられるようになったという。幸せのかたちは似かよっているところがあるが、哀切や苦悩はどれひとつ同じものがない。人は、なぜ、自分にだけそれが下りてきたのかと考えがちだが、やがて時間の経過とともに、自分と同じような体験をしている人が、この世には大勢いることが分かってきたという。

 亡き弟の仏壇に今も毎日話しかける老母、死をもって子に最後の教育をした亡父をはじめ、愛犬の死や道半ばで亡くなった書店員、早世した恩人、そして亡き妻と病室の窓から眺めた最後の花火など。故人や大切な人を失った知人らのことをつづりながら、人間は別離した人々が残された人の生の力になる「さよならが与えてくれた力」によって生かされていると語る。

 悲しみや苦悩を抱えて生きる人々に寄り添う一文一文が心にしみる。(講談社 926円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  3. 3

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  4. 4

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  5. 5

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  1. 6

    志村けんさん急逝から5年、更地になった豪邸の記憶…いしのようことの“逢瀬の日々”

  2. 7

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  3. 8

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  4. 9

    広陵野球部は“廃部”へ一直線…加害生徒が被害生徒側を名誉棄損で告訴の異常事態

  5. 10

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった