勇ましいことを言うことが国益に適うのか再認識させられる

公開日: 更新日:

「エスカレーション 北朝鮮VS.安保理四半世紀の攻防」藤田直央著/岩波書店

 著者の藤田直央氏は、朝日新聞政治部の外交・安保・憲法担当記者で、ていねいな取材で定評がある。評者も外交官時代に藤田氏の取材を何度も受けたが、よく調査した上で質問をしてくるので手ごわい記者だった。

 藤田氏が、北朝鮮の核開発問題について1993年から2017年までの経緯と、関係者の動きについて丹念に取材した力作だ。

 現状と近未来の見通しについて藤田氏はこう述べる。<核・ミサイル開発を推し進めている。この問題は冷戦直後の一九九○年代、一強となった米国が仕切る地域的な問題として、米朝協議にほぼ独占されていた。それが今や安保理の最大の懸案の一つとなり、制裁決議の実効性をめぐって安保理の存在意義を揺るがしている。/「最悪の事態」(北京大学国際関係学院院長の賈慶国)へと、砂時計がさらさらと時を刻んでいるのかもしれない。落ち続ける砂の減り具合をどう見るのか、落ちきった時に何が起きるのか。安保理がこれだけ議論を重ねても、国際社会は危機感を共有できていない。金正恩自身、砂時計を揺すって砂をどんどん落としていることに、どこまで敏感なのかも定かでない。>

 不安なのは、金正恩朝鮮労働党委員長のみならずトランプ米大統領も合理的予測から外れた動きをする可能性が排除されないことだ。2人の間の「売り言葉に買い言葉」が原因となって、朝鮮半島で数百万人が死亡する可能性があり、日本でも少なく見積もっても数千人の死者が出るような戦争が起きることは何としても避けなくてはならない。

 圧力をかけ続ければ、北朝鮮が譲歩し、核兵器と弾道ミサイルを廃棄することになるというシナリオは非現実的だ。軟弱だとの批判を受けることを覚悟して、あえて述べるが、現在必要なのは戦争を避けるために米国が北朝鮮と対話し、双方が妥協することだ。日本としても、国連の場を通じて、朝鮮半島で戦争が起きることを阻止するために具体的な働きかけを強めるべきである。勇ましいことを言うことが、日本の国益に適うのではないということを本書を読んで再認識した。 ★★★(選者・佐藤優)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは