巷にあふれる定年後指南書をメッタ切り

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「定年バカ」勢古浩爾著/SB新書/800円+税

 高齢者が田舎に移住し、そこでいかに楽しくイキイキと生きているかを描く「人生の楽園」(テレビ朝日系)が高視聴率を獲得している。それだけ「豊かな第二の人生」に憧れている人が多いということだろう。

 だが、本書はそういった巷にあふれる「老後=自由で楽しい、本当にやりたいことができる人生」論を否定する。定年後の人生について論じる本は「地域活動に従事せよ」「昔の友人との旧交を深めよ」「これまでの知識を生かし、社会に貢献せよ」といったことを説くが、本書の著者(1947年生まれ)は大前提として「自分の好きにすればよい」という一言で事足りるとしたうえで、こう書く。

〈とくにこれといってしたいこともないし、友人も少ないけど、まあ「好きにするわ」といって、多少うら哀しく、それでいてそこそこ楽しい一日一日が過ごせれば、それでいいではないか。そんな人を誹謗せず、そんな自分を卑下しなくていいのである〉

 かつて55歳だった定年が60歳に延び、さらには65歳も選べるようになった。だが、55歳を過ぎた途端に花開き、仕事で大活躍する人材は多くはない。企業の役員や経営者、職人や漁師や農家であればその先の活躍も見込めるが、一般的な勤め人であれば役員レースから脱落した者は閑職に落ち着いているだろう。

「あと5年を全うし、その後の5年、再雇用してくれればありがたい……」と考え、能力の研鑚や新規顧客の開拓というよりは、失敗をしない人生を送るようになる。そりゃそうだ。現場の仕事は若手がやるものだし、年上に指示を出すのは若手としても抵抗がある。そこで唯一、希望を見いだすのが「やりたかったことができる定年後の人生」であり、そうした本が世の中には氾濫している。

 本書はあまたの「定年本」を徹底的にこき下ろす形で紹介する。本田健氏の「60代にしておきたい17のこと」には、「昔の友人たちを探して、もう一度出会い直すこと」という項目があるが、これについてはこう書く。

〈何十年も音信不通だったのだ。ほぼ他人も同然になってしまった昔の亡霊がなんでいまごろ連絡してきやがった?この野郎は金を借りようとしてるのじゃないか、と警戒されるのが関の山ではなかろうか〉

 一時が万事この調子なので、夢を見たい人に本書はおススメしないが、私のようなひねくれ者はこの論調の方が好きである。

★★半(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

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