著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「血のペナルティ」カリン・スローター著 鈴木美朋訳

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 いやはや、すごい。読み始めたらやめられず、最後まで一気読みだ。話は一見、シンプルに見える。なぜなら拉致された母親を救出する物語だからだ。ただ、それだけだ。複雑なことは何もない。それでもたっぷりと読ませるのは、冒頭からいきなり銃撃戦が始まるし、その後も怒涛の展開が続いて目が離せないからである。その迫力が群を抜いている。

 実はこれ、ジョージア州捜査局特別捜査官のウィル・トレントを主人公とするシリーズの第5作だ。シリーズの途中からでは、これまでの作品を未読の人は読めない、と思うのが普通だが、カリン・スローターの場合は異なる。全然、平気である。このシリーズの場合、どこから読んでもいい。話がわかるように出来ているから素晴らしい。

 60代の女性3人が大活躍するのも今回の特徴だ。詳しく紹介したいが、これは本書をあたられたい。ウィル・トレントをはじめとして、キャラが立ちまくりなのもカリン・スローターの特色だが、3人の婆さま以外にも、女医サラ・リントンと、ウィルの妻アンジーなど、個性的な女性が多い。これらの女性たちが時には協力し、時にはぶつかって、激しく競演する様子がすごい。

 さらに、一見シンプルに見えた話の奥に真実が潜んでいる、との展開が何よりも素晴らしい。いま翻訳ミステリー界でもっとも面白い作家の新作を、ぜひ堪能されたい。

(ハーパーコリンズ・ジャパン1185円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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