偽史の背景に欧米への強い劣等感

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「近代日本史の偽史言説」小澤実著 勉誠出版 3800円+税

 日本の中世から近世にかけて、鋳物師や木地師などの「職人」が、自分たちの先祖はやんごとなきお方のお墨付きを得てこの職業に就いたのだという偽の古文書を作成し、その職業の由来を正統化した。ふつうなら荒唐無稽なインチキだと相手にしないところだが、いや、なぜそのような物語を必要としたのか。そこには日本の社会・文化の根底に触れる重要な問題が横たわっているのではないかと、偽文書の史料的な活用を提唱したのが、中世史家の網野善彦だ。

 本書で取り上げられているのは、「チンギスハンは源義経である」「ユダヤ人が世界の転覆を狙っている」「イスラエルの12支族のうち一部が日本にやってきて天皇家の祖となった」といった、“トンデモ本”やSNSでよく取り上げられるとっぴな言説群である。

 これを偽文書ならぬ「偽史」と一括することはできようが、これらの言説が時にサブカルチャーの対象としての矩(のり)を飛び越え、突然アクチュアリティーを帯びた社会問題として立ち現れることもある。本書は近代日本においてそうした偽史がどのように生成、機能、受容されていったのかを、アカデミズムの立場から跡づけた論文集である。

 江戸後期に偽作された系図や絵図が真正の中世史料として出回った「椿井文書」、平田篤胤が漢字伝来以前にあったと提唱した「神代文字」、青森県の旧戸来村で「発見」されたキリストの墓で注目を浴びた竹内文書(近代竹内文献)、さらには先に挙げた義経=チンギスハン以下の偽史がそれぞれ詳しく検証されていく。

 そこから浮かび上がってくるのは、日本民族の優越性を誇示する強烈なナショナリズム(裏返せば、欧米列強、白色人種に対する劣等感)である。ホロコーストや南京事件に関して、偽史ならぬ「歴史修正主義」が問題となっている現在、本書は極めてアクチュアルな問いを投げかけている。
 <狸>

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