北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 書名になっている「カトク」とは、過重労働撲滅特別対策班、の略だ。ブラック企業が社会問題化している中、違法な長時間労働を取り締まる目的で、東京と大阪の労働局に設置された特別捜査チームである。

 本書は、東京労働局「カトク」班で働く城木忠司を主人公にした連作で、4編を収めている。彼は、不動産会社、広告代理店など、大手企業にはびこるブラック体質を内偵し告発していく。現代ニホンで働く人々の過酷な現実から目を背けず、日々の努力はいつか必ず実を結ぶと信じているが、作中にもうひとつの視点があるのがキモ。

 たとえばテレビの取材班にカトクの村井班長が問い詰められるシーンを見られたい。カトクが摘発しても検察が起訴を見送ることが続くと、不起訴になることが分かっていて送検しているのではないか、裏で国と財界がつるんでいるんじゃないか、労基法の罰則なんてたかがしれているから大企業にとっては何のペナルティーにもならない、この国から過労死も過労自殺もなくならない、と問い詰められるシーンだ。

 ここに、しかし摘発のニュースが報道されれば、なんらかの歯止めにはなるのではないかというくだりを重ねれば、本書のテーマも見えてくる。カトクは万能の神ではないが、誰もが安心して働ける社会を実現するための、その気が遠くなるような目標に向かうための私たちの希望であると。圧倒的なリアリティーがその希望を支えている。

 (文藝春秋 800円+税)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    想像を超える民意の「ノー」に安倍政権は青ざめている<上>

  2. 2

    孤独なホームレス男性の最期を看取った女性警官の愛は無償

  3. 3

    N国議席獲得で古谷経衡氏が指摘「常識が溶けていく恐怖」

  4. 4

    参議院選挙の最大の敗者は「事実」という深刻な事態

  5. 5

    山本太郎らが試算 消費税ゼロで「賃金44万円アップ」の根拠

  6. 6

    8年かけて高校を卒業…同級生の“無音”の拍手に校長も感動

  7. 7

    ALS患者の舩後氏当選で 議事堂が迫られる改修と慣習の刷新

  8. 8

    伊調敗北は“忖度判定”か…代表決定戦で新たな火種が表面化

  9. 9

    れいわ奇跡の躍進 山本太郎「政権を狙いに行く」の現実味

  10. 10

    ほぼ「絶対君主」吉本興業・岡本昭彦社長のコワモテ評判

もっと見る

編集部オススメ

  1. {{ $index+1 }}

    {{ pickup.Article.title_short }}

もっと見る