著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 異色の漁師小説である。一本釣りの漁師たち5人組がいる。35歳の新一を除けば、あとの4人は50代半ばから60代半ば。みな、ワケありの男たちだ。

 その5人が根城にしているのは日本海に浮かぶ孤島。この島から漁に出て、時代遅れの一本釣りで鯖を仕留め、浜までの3時間で塩漬け、さらには、ぬか漬けでヘシコを作る。そんな日々を送っている男たちに、明るい未来はなく、今日をただただ生きている。20年も経てばこの船団で残るのは自分だけだ、と新一は考えている。

 そこに現れるのが、割烹の女将、恵子。もっと魚を持ってくればもっと買う、と怪しげに近づいてくる。船頭の権座65歳は悪い気がしない。それだけならまだよかったが、次に登場してくるのは、巨額な資産を持つIT会社社長のドラゴン村越と、そのパートナーのアンジェラ・リン。彼らは、もっと人を雇い、鯖(ヘシコ)を中国に売りさばくビジネスを考えて、この荒くれ漁師軍団に近づいてくる。やり方ひとつで漁業は儲かるビジネスなのだ。かくて不穏な空気が漂って、風雲急を告げてくる。

 著者の赤松利市は、第1回の大藪春彦新人賞を受賞した人で、本書はその長編第1作(受賞作ではない)。「62歳 住所不定 無職 平成最後の大型新人 鮮烈なるデビュー」という帯の惹句が強い印象を残す。造本装丁も素晴らしい。

 (徳間書店 1700円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢