著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや」黒瀬陽著

公開日: 更新日:

 中学2年生はバカである。マンガ雑誌の裏表紙にあった通販の「モザイク消し機」を購入するのだ。1回500円でアダルトビデオのモザイクを取る「ビジネス」を思いついたからだ。もちろん、その商品が届いても、モザイクは全然取れない。目を細めたほうがマシなくらい、というから情けない。

 しかし彼らを笑えないのは、こういうバカな青春を私たちもまた送ってきたからだ。「モザイク消し機」は注文しなかったが、その種の広告を見て、もしかしてホントにできるかも、と思ったことは一度や二度ではない。私たちもまたバカであったのだ。だから、他人事ではない。

 本書は、「おどるポンポコリン」がテレビから流れていた1996年の広島を舞台に、中学2年生のイケとらんグループを描く青春小説である。友情と喧嘩と和解、初恋と性の目覚め――それは、どこにでもあるような青春で、とりたてて珍しいことがあるわけではないが、だからこそ、とてもいとしい日々といっていい。そのバカで、アホで、イケとらん毎日を、丁寧に描いていくので、この物語にどんどん引き込まれていく。

 イケとるグループのリーダー丸ちゃんが、学外の不良チームに入ったらパシリにされていて、それを目撃した主人公たちに「言うなや学校で。俺がチームのパシリにされとったとか」と言うシーンは結構切ない。

 第20回ボイルドエッグズ新人賞の受賞作だ。

(早川書房 1400円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因