「僕らのごはんは明日で待ってる」瀬尾まいこ著

公開日: 更新日:

 入院食というのはたいがい塩分控えめで味気ないもの。そこで活躍するのがふりかけ。本書にも、長く入院している人に何種類ものふりかけを差し入れる場面が出てくる。贈られた人がいう。「これだけ種類があるってことは、明日のご飯はどれをかけようか楽しみになるね」と。そう、毎日のごはんというのは、そのふりかけのように特別である必要はなく、同じもののくり返しの中にちょっとした彩りがあればそれだけで心豊かになる。

【あらすじ】葉山亮太は中学生のときに最愛の兄を病気で亡くし、以来、周囲との扉を閉ざし、人が死ぬ小説ばかり読んでいる高校3年生。そんな亮太にクラスメートの上村小春が体育祭の米袋ジャンプ競走でペアを組もうといってきた。暗くて人付き合いの悪い亮太とペアを組みたい人がおらず、体育委員の小春が仕方なく引き受けたのだという。

 根が素直な亮太は練習に励み見事1位に。すると小春が「実は」と告白してきた。小春のおかげで止まっていた亮太の時間は再び動き出し、その気がなかった大学にも進学することに。順調に行っていたかに思えた2人だが、ある日突然、小春が別れようと切り出してきた。理由もわからず途方に暮れる亮太だが……。

【読みどころ】一見食べ物とは関係なさそうな青春小説だが、物語のそこかしこに、ミニ団子にオムレツのお弁当、マクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーなどのファストフード、揚げバナナ、唐揚げに菓子パン……といった食べ物が登場する。

 読み進めていくうちに、こうした平凡な食べ物が互いに屈託を抱えている亮太と小春の日常をしっかりと支えていることがわかってくる。そして意味深なタイトルの意味も。 <石>

(幻冬舎 500円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 4

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  5. 5

    狭まる維新包囲網…関西で「国保逃れ」追及の動き加速、年明けには永田町にも飛び火確実

  1. 6

    和久田麻由子アナNHK退職で桑子真帆アナ一強体制確立! 「フリー化」封印し局内で出世街道爆走へ

  2. 7

    松田聖子は「45周年」でも露出激減のナゾと現在地 26日にオールナイトニッポンGOLD出演で注目

  3. 8

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  4. 9

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 10

    実業家でタレントの宮崎麗果に脱税報道 妻と“成り金アピール”元EXILEの黒木啓司の現在と今後