「料理人」ハリー・クレッシング著 一ノ瀬直二訳

公開日: 更新日:

「男をつかむなら胃袋をつかめ」とは、女性が男を落とすときにうまい料理が強い武器になるという意味でよく使われるが、男女に限らず、胃袋をグッとつかまれると、つい寛容になるのは世の常。本書に登場するのは、胃袋で町ごとつかんでしまうという、極めておそるべき料理人の話。

【あらすじ】小さな田舎町コブの小高い丘の上にそびえるプロミネンス城は、町の創設者でありこの地方でも有数の地主であるコブ一家が先祖代々住んでいた邸宅。しかし、ある時期、男系の相続者がおらず姉妹2人がおのおの結婚し、ヒル家とヴェイル家に分かれて以来、同城は両家が結婚によって結合するまでは誰も住んではならないこととなった。しばらく両家は角突き合わせていたが最近はそれも収まり、ヒル家の息子とヴェイル家の娘が結婚するのではという観測もされていた。

 そんな折にヒル家のコックとしてコンラッドという料理人が雇われた。コンラッドは初日からヒル家全員の胃袋をつかんでしまう。おまけに、ヴェイル家の痩せぎすの両親と肥満の娘を彼の料理で正常な体重に戻すという奇跡を成し遂げた。

 さらに、ヒル家の雇い人たちを自由に操るだけでなく町の料理屋やパブまでも瞬く間に彼の影響下に置かれ、いまやヒル家もヴェイル家もコンラッドの意のまま。念願の両家統合も現実となりプロミネンス城に再び人が住むようになる……。

【読みどころ】最初は腕のいい料理人と思われていたコンラッドだが、極上の料理という武器を用いて人々を操っていくところは凄みがある。日本では未公開だが、アンジェラ・ランズベリー、マイケル・ヨークらの出演で「すべての人のもの」として映画化されている。 <石>

(早川書房 780円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲