「クリスマス・プディングの冒険」アガサ・クリスティー著、橋本福夫・他訳

公開日: 更新日:

 晩年のアガサ・クリスティーは毎年クリスマスに合わせて新刊を出した。クリスティー・ファンは年末にクリスティーの新刊を読むのが恒例行事になっていた。本書はクリスティー自らが料理長となって、とっておきのクリスマスのごちそう(短編)を供するという仕立ての短編集。ポアロに加えてミス・マープルも登場し、年末に読むクリスティーにはうってつけ。

【あらすじ】ある国の王子がロンドンでご乱行の揚げ句、王家に代々伝わるルビーを遊び相手の女性に持ち逃げされてしまった。しかも王子には婚約者がいた。

 スキャンダルにならないうちにこの事件を解決してほしいと頼まれたエルキュール・ポアロは、ルビーを持っている女性が潜んでいるという邸宅のクリスマスパーティーに潜入することに。しかし、そこにはポアロが名探偵であると聞いて、いたずらを仕掛けてやろうとする若者たちが待ち受けていた。

 クリスマス当日、メインのプディングが出てきた。人数分に切り分けられ、その中に何が入っているかで運命を占うのだが、その中のひとつに赤い石が入っていた。そしてその夜、誰かが殺されたらしいと若者の一人がポアロの元に駆け込んできた……。

 王子の苦境を救うと同時に、若者たちを逆に手玉に取ってみせるポアロの灰色の頭脳が見事に活躍する表題作。「二十四羽の黒つぐみ」も料理がテーマの好短編。毎週決まった曜日に同じ料理を注文していた料理店の常連が、ある日いつもと違った料理を注文した。そこに不審のにおいを嗅ぎ取ったポアロはその謎の解明に乗り出していく……。

【読みどころ】ポアロの名推理と英国風の「あっさりしてごてごてしない」料理のコラボレーションが独自な味わいを生み出している。 <石>

(早川書房 900円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異