「毒入りチョコレート事件」アントニイ・バークリー著、高橋泰邦訳

公開日: 更新日:

 ロアルド・ダールには「おとなしい凶器」と「味」という食べ物を扱った傑作ミステリー短編があるが、これはどちらかといえば変化球。ミステリーと食べ物といえば、やはり毒殺が王道だろう。なかでもこのバークリーの長編は毒殺事件ものの古典で、ミステリーに関する各種のオールタイムベストにいくつもランクインしている名作。

【あらすじ】小説家のロジャー・シェリンガムが会長を務める「犯罪研究会」は、ロンドン警視庁首席警部モレスビーが手がけている迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。実業家のベンディックスはピカデリー大通りにあるクラブで、大手チョコレート会社から送られてきたチョコレートボンボンを手にしていたユーステス卿に出会う。卿は新製品の感想を求められたのだが、そんな下世話なことに首を突っ込みたくないとご立腹の様子。妻との賭けに負け、チョコレートを買わなければならなかったベンディックスは、渡りに船とチョコレートを譲り受ける。ところがそのチョコレートには毒が仕込まれていて、ベンディックスは重体に陥り、妻は落命。

 この事件を巡って、ロジャーを含めて6人の会員全員が1週間捜査した後、各自推理を披露することに。ロジャーの他、刑事弁護士のチャールズ卿、劇作家のフレミング、推理作家のブラッドレー、そして肩書のないチタウィックがそれぞれ独自の推理をして、犯人を挙げる。ブラッドレーのみ2種類の推理を披露したため、警察のものも含め全8種類の推理が出たが、動機も犯人もバラバラ。果たして真相は――。

【読みどころ】いわゆる「多重解決もの」の嚆矢。各メンバーの個性的な推理を楽しめるが、最後のチタウィックの推理は、まさにどんでん返し。 <石>

(東京創元社 800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  2. 2

    帝釈天から始まる「TOKYOタクシー」は「男はつらいよ」ファンが歩んだ歴史をかみしめる作品

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  5. 5

    立川志らく、山里亮太、杉村太蔵が…テレビが高市首相をこぞってヨイショするイヤ~な時代

  1. 6

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  2. 7

    森七菜の出演作にハズレなし! 岡山天音「ひらやすみ」で《ダサめの美大生》好演&評価爆上がり

  3. 8

    小池都知事が定例会見で“都税収奪”にブチ切れた! 高市官邸とのバトル激化必至

  4. 9

    西武の生え抜き源田&外崎が崖っぷち…FA補強連発で「出番減少は避けられない」の見立て

  5. 10

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ