著者のコラム一覧
堀井憲一郎

1958年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。徹底的な調査をベースにコラムをまとめる手法で人気を博し、週刊誌ほかテレビ・ラジオでも活躍。著書に「若者殺しの時代」「かつて誰も調べなかった100の謎」「1971年の悪霊」など多数。

「『砂漠の狐』ロンメル」 大木毅著

公開日: 更新日:

 ロンメルとは、ヒトラーにも寵愛されたドイツの軍人である。

 ナチス・ドイツ下において圧倒的な人気を誇った。北アフリカでの戦線を率いて「砂漠の狐」と呼ばれ、敵将からも恐れられ尊敬されていた。

「ロンメル軍団を叩け」というような映画のタイトルで記憶している人もいるだろう。

 最期はヒトラー暗殺に加担したとされ、毒を飲むように命じられて死んでいる。そのロンメルの軍人としての生涯を描いたのが本書である。

 第1次世界大戦から第2次世界大戦までのドイツの姿が描かれている。ロンメルがどう戦ったかを図解を添えて語られ、実にわかりやすい。どれだけ資料を調べたのだろうと驚嘆する著述である。

 第1次大戦中は、山岳を担当する部署を指揮し、ロンメルは数々の軍功を挙げる。のちに「狐」と呼ばれた将校は、敵を騙すのが得意だった。一方向から攻めるように見せておきながら主力部隊をよそに回し、戦闘が佳境に入ったところでその別動隊を突入させ、敵の錯乱を誘い、殲滅する。特に1918年7月のコスナ山の攻略戦の図解は、まさに調査のたまものであり、躍動する描写になっている。

 目の前で今、戦闘が行われ、ロンメルが山を征服しているのを俯瞰するような気分になった。

 第2次大戦においてはフランスを占領した電撃作戦が圧倒的である。ロンメルは先頭を進み、自分の後続部隊までぶっ千切って侵入していく、という傾向のある人だった。将校であるにもかかわらず最前線に立ち、先頭で戦うその姿はいつも支持された。

「奇襲による勝利」を狙うロンメルの姿勢は、やがて国軍を担う将軍となり「負けないこと」を求められる地位に上ると、機能しなくなっていく。さまざまな苦汁をなめ、やがて悲劇に見舞われる軍人の姿は、戦国時代の武将たちの生涯を眺めているようでもある。重厚な資料に裏付けられたこの新書はまた、「一人の武将の生涯」を描き切った物語本とも読める。

(KADOKAWA 900円+税)

【連載】ホリケン調査隊が行く ちゃんと調べてある本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    長瀬智也が国分太一の会見めぐりSNSに“意味深”投稿連発…芸能界への未練と役者復帰の“匂わせ”

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  3. 8

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  4. 9

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  5. 10

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…