公開日: 更新日:

「ナチスの『手口』と緊急事態条項」 長谷部恭男、石田勇治著

 危険なナショナリズムへの傾斜が世界的に高まる中、ナチスへの告発や歴史的教訓に学ぼうとする強い意欲も高まっている。

 ◇

 改憲論議にかこつけて「ナチスの手口に学んだらどうかね」と放言した麻生副総理。まるでドイツ国民が和気あいあいとヒトラー賛美に走ったかのような言い草に非難ごうごうだったが、当の本人はいまやどこ吹く風。与党議員らの放言罵言もいっこうに収まらない。そんな「安倍1強」時代の独善に対して立ち上がったのが憲法学者とナチ・ドイツ研究の歴史学者。本書は2人の対談による「ナチスの手口」論だ。

 ヒトラーの政権掌握は「民意」によるものと思われがちだが、実は選挙でナチ党が獲得した議席は全体の約3分の1。ヒトラーは「国民総決起内閣」を自称したが、実態はせいぜい「右派統一政府」。それがあれほどの権力を手にできたのは、なぜか。このからくりを当時のワイマール体制下の法的制度や大統領緊急令のしくみ、無力な野党の政局などを通して読み解いていく。

 かなり複雑だが、対談形式が功を奏して次第に世論がヒトラー流の「決められる政治」に流されていったのがよく分かる。ナチスの故事は、決して歴史のエピソードではないのだ。(集英社 760円+税)

「隠れナチを探し出せ」アンドリュー・ナゴルスキ著 島村浩子訳

 戦後何十年にもわたって世界各地のかたすみにひっそりと生息するナチの戦争犯罪人。本書は彼らを「追う側」、つまりナチ・ハンターたちの足跡を描いたノンフィクションだ。ハンターの中にはホロコースト収容所からの生還者もいれば、悪名高い収容所長ルドルフ・ヘスに衝撃的な告白をさせたポーランド人調査判事ヤン・ゼーンのような、いまでは忘れられた役人もいる。

 実は、ドイツでもヒトラー時代への国民的反省は当初から強かったわけではない。戦争犯罪摘発に尽力した検事長の功績や、映画・テレビなどでこの問題を繰り返し取り上げた影響が大きいという。

 ジャーナリストの著者は、いまだに虐殺や慰安婦問題に目をつぶる日本社会にも苦言を呈しているが、単なる頭ごなしの説教ではない。本書は「記憶」をめぐる社会の闘いなのだ。(亜紀書房 3200円+税)

「アウシュヴィッツの歯科医」ベンジャミン・ジェイコブス著 上田祥士監訳 向井和美訳

 ナチスが設けたユダヤ人強制収容所。そこに収監されながら、歯科医として働いたことで戦後まで辛くも生き延びた青年がいた。それが本書の著者。21歳、歯科学校1年生のときに収容所に連行されたが、母が持たせてくれた歯科治療の道具箱のおかげで同胞の収容者だけでなく、ドイツ人の監視人たちの歯科治療も手がけることになる。

 表紙のイラストは、まるで愉快な少年読み物の挿絵のようだが、内容は異色の収容所体験。著者は戦後アメリカに移住し、老いて咽頭がんを患ったことが執筆のきっかけだったという。(紀伊國屋書店 1900円+税)


【連載】NEWSを読み解く今週のキーワード

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  2. 2

    高額療養費制度があるから医療保険はいらない? 病院の窓口業務を行う筆者が実際に骨折して感じたこと

  3. 3

    高市早苗氏に経歴詐称疑惑…事務所が認めた!「議会立法調査官」は“造語”だった

  4. 4

    高市首相の“恥”行動が海外に飛び火! 英タイムスがG7外交をディスり、英FTは国内財界との没交渉ぶりを暴露

  5. 5

    高市首相は筋金入りの嘘つき! 経歴詐称疑惑で米下院関係者が決定的証言「インターンだった」SNSで猛拡散

  1. 6

    バナナマン日村が体調不良で休養するまでの“暴食・連食デイズ”と妻・神田愛花「お腹いっぱい食べさせる」の献身愛

  2. 7

    「2世タレント」がまた! 俳優の村上虹郎が交際女性への壮絶DVで書類送検…父親は村上淳、母親は歌手UA

  3. 8

    西武選手の希望が木端微塵! 本拠地「完全ドーム化」は事実上不可能…根性頼みで過酷な夏へ

  4. 9

    歌手・小椋佳さん「たばこの煙が悩みを解いてくれた」…82歳の今も週1でコンサート

  5. 10

    『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』オールキャリアを代表する傑作のトリセツに注意セヨ