「角さんとじゃじゃ馬」田中眞紀子著/KADOKAWA

公開日: 更新日:

 平成の30年間をさまざまなメディアが総括するなか、すっぽりと抜け落ちていると思う視点がある。それは、自民党が旧田中派支配から旧福田派支配に変わったということだ。私の見立てでは、田中派の基本理念は平和主義かつ平等主義。福田派の基本理念は、主戦論かつ弱肉強食主義だ。

 2001年の小泉政権の誕生以降、福田派の政策が前面に出てきて、日本の経済や社会は、がらりと姿を変えてしまった。それが平成に起きた最大の事件だと私は、思うのだ。

 著者の田中眞紀子氏は言うまでもなく、田中角栄元総理の愛娘だ。若いころから角栄氏に連れられて、世界を見てきた。そして政治の世界に飛び込んでからは、何度も大臣を務めるなど、第一線で活躍した。しかし、いつの間にか、「トンデモ政治家」の烙印を押され、政治の世界から抹殺された。ただ、外務省を「伏魔殿」と評したときも、私は内心、言い得て妙だと思っていたし、彼女の掲げる政策には親近感を覚えていた。門前の小僧ではないが、田中角栄の思想に強く影響されていたからだ。

 本書には、著者が「一生懸命やっているんですけどね」と言いながら泣いた事件や、なくした指輪を秘書官に買いに行かせた事件などの真相が書かれている。それは非常に興味深いのだが、ネタバレになるので、中身は書かない。

 ただ、本書を貫く福田派政策批判は、明快で、傾聴に値する。もちろんそれは、安倍政権への批判でもある。原発政策や、安全保障政策への批判は、納得のいくものばかりだ。一番に印象に残ったのは、「戦争を知らない世代が政治の中枢になったときは、とても危ない」という角栄の言葉だ。戦争の悲惨さが分からないから、安易に主戦論を口にする。それが、いままさに起きている事態なのではないか。

 ただ、著者の最大の過失は、政策がまったく異なる小泉純一郎氏を自民党総裁選に担ぎ出し、当選させてしまったことだろう。もし、それがなかったら、小泉内閣の誕生もなかったし、いまの日本は、もっと平和で平等になっていたと思う。

 いずれにしても、本書は、平成を振り返る際に欠かすことのできない、貴重な歴史資料だ。 

★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志氏はパチプロ時代の正義感どこへ…兵庫県知事選を巡る公選法違反疑惑で“キワモノ”扱い

  2. 2

    タラレバ吉高の髪型人気で…“永野ヘア女子”急増の珍現象

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    《#兵庫県恥ずかしい》斎藤元彦知事を巡り地方議員らが出しゃばり…本人不在の"暴走"に県民うんざり

  1. 6

    シーズン中“2度目の現役ドラフト”実施に現実味…トライアウトは形骸化し今年限りで廃止案

  2. 7

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  3. 8

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 9

    大量にスタッフ辞め…長渕剛「10万人富士山ライブ」の後始末

  5. 10

    立花孝志氏の立件あるか?兵庫県知事選での斎藤元彦氏応援は「公選法違反の恐れアリ」と総務相答弁