「平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム」片山杜秀著/幻冬舎新書/2018年

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 いよいよ5月1日から新天皇が即位し、元号も令和に変わる。本書は、平成の時代を総括し、新たな時代への展望について考察した好著だ。

 片山杜秀氏は、民主主義と天皇の存在に根源的な矛盾があると考える。
<民主主義は、構成員のすべてが対等な政治的権利を持つことを求めます。そこには「神」がいてはいけないし、「神」の片鱗を有する者がいることも許されません。対等な政治的権利を持たない人間が存在することは、民主主義に反するからです。/とすれば、昭和天皇が戦後民主主義の中で人間天皇になった段階で、天皇制の存続は綱渡りのような困難な道になったととらえるべきでしょう。/実際、昭和から平成にかけて、天皇と国民の関係はフラット化の一途を辿っていきました。天皇は神ならざる人として、国民から尊敬され敬愛され信頼される特別な人であると不断に認証され続けなければなりません>

 天皇は、現人神でありながら、日本を象徴する理想的な人間であるという「不可能の可能性」に挑み続けないとならないのである。

 もっとも天皇のような非合理的システムと並行して、社会では合理主義的なテクノロジーが急速に進んでいる。技術が人間を滅ぼす危険に片山氏は警鐘を鳴らす。
<ナチスは暴力的に虐殺するから怖いとすぐ分かるけれど、虐殺はされなくても人間のいらない環境をわざわざ進んでつくるというのは結局、どう大義名分を立ててごまかそうとしても、ソフトな虐殺ですよ。したがってAIとロボットをめぐっては選択と抑制を国際的に、特に労働者階級による人間本位の権力によって行うべきである。(中略)/AI栄えて人間が滅ぶ道を選ぶのか、人間であり続けるために現代の機械打ち壊し運動に参戦するか。とにかく、平らかに成る予定だった平成の世が追い払ってしまったマルクスを読み直したほうがいいですよ。ポスト平成の人間の行く末は、マルクスを呼び戻せるかどうかにかかっているのかもしれません> マルクスではなく天皇による国民統合にAIによるソフトな虐殺を回避しようとする動きが、今後、出てくるかもしれない。

★★★(選者・佐藤優・2019年4月10日脱稿)

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