「崩壊の森」本城雅人著

公開日: 更新日:

 主人公は東洋新聞の記者・土井垣侑。チェルノブイリ事故発生からちょうど1年後となる1987年4月26日に、特派員としてモスクワに赴任したところから物語は始まる。

 当時のソビエト連邦は、ゴルバチョフによるペレストロイカ政策が進められていたものの、常にKGBが暗躍し、記者もソビエト政府の監視下にあった。当局から目を付けられないよう本社からは「スクープ禁止令」が言い渡される状況下で、許可された取材だけではソ連の宣伝活動にしかならないことに業を煮やした土井垣は、リアルな市井の人々の声を拾おうと町で夜な夜な行われているパーティーに顔を出すことに。しかし監視の目は常につきまとい、尾行や盗聴、家への侵入などの事態に直面する……。

「ミッドナイト・ジャーナル」で吉川英治文学新人賞を受賞した著者による最新作。

 時代の激動期に立ち会った日本人特派員の目を通して、ペレストロイカ下のソビエトやベルリンの壁の崩壊などの歴史的瞬間や、報道人の在り方が描かれる。個性の強いライバル記者や、秘密ありげなモデル事務所の社長など、登場人物も魅力的だ。

(文藝春秋 1750円+税+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし