著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「傍流の記者」本城雅人著

公開日: 更新日:

 新聞記者小説である。舞台となる東都新聞社はどちらかといえば政権寄りの新聞で、社内的にも政治部が強い。そういう会社における社会部記者を描くのが本書だ。

 東都新聞社の社会部史上最高の同期といわれる6人、すなわち得意分野の異名で並べると、「警視庁の植島」「検察の図師」「調査報道の名雲」「遊軍の城所」「人事の土肥」、そして早くに総務に異動した北川の6人の視点で描かれる連作長編である。

 他社との特ダネ競争だけでなく、政治部との駆け引き、さらには社会部内部での暗闘もあって、新聞記者の厳しい日々がリアルに、克明に描かれていくので目が離せない。舞台となる大手新聞社の場合、社会部130人のうちデスクになれるのは6人だけ、部長になれるのは1人。編集局には600人の部員がいるが、部長が何人いても局長になれるのは1人。その出世競争に敗れた者は、同期や年下の上司からこき使われ、敗者の多くは地方支局やへき地の通信部を転々とする。そういう下克上の世界だという。

 こういう厳しい現実を背景に、それでも真実を報道するという使命を帯びて奮闘する記者たちの日々を、たくさんの人間ドラマ(これがホントにうまい)を織りまぜて巧みに、鮮やかに描いていく。人物造形よく描写よく構成が秀逸だからこそ、ラストの感動につながることも明記しておきたい。出世作「ミッドナイト・ジャーナル」に匹敵する傑作だ。

 (新潮社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    国分太一との協議内容を“週刊誌にリーク”と言及…日本テレビ社長会見の波紋と、噴出した疑問の声

  5. 5

    衆院定数削減「1割」で自維合意のデタラメ…支持率“独り負け”で焦る維新は政局ごっこに躍起

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  5. 10

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較