「会計と犯罪」細野祐二氏

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 オリンパスや東芝の粉飾決算をいち早く見抜き、日本の監査制度が機能不全に陥っていると切り捨てる著者は、異端の元公認会計士である。

 シロアリ駆除会社「キャッツ」の粉飾決算を主導したとして東京地検特捜部に逮捕・起訴され、2010年5月に有罪が確定。本書は、その実体験をもとに、冤罪を組織的に引き起こす特捜検察のやり口を浮き彫りにした告発の書だ。

「私のような元刑事被告人は、出版界で“お縄系セレブ”と呼ぶそうです。元外務官僚の佐藤優さんやホリエモンこと堀江貴文さんらもお仲間とか。彼らは、社会的差別を受けることなく、今やベストセラー作家であり、オピニオンリーダーです。お縄系の転機になったのが、本書で詳細に再現した元厚労事務次官・村木厚子さんの冤罪事件です。特捜検察の証拠改竄が発覚した史上最大級の不祥事でした。大物政治家や高級官僚に巨悪のレッテルを貼り、世論を味方につけて有罪犯に仕立て上げる体質を天下にさらけ出しました」

 特捜検察の最大の問題は、有罪に持ち込むシナリオを逮捕前から作っていることだという。供述調書も用意されている。容疑者が否認してサインを拒否すると長期間、拘束される。いま問題視されている「人質司法」である。最後まで供述調書へのサインを拒否した著者は190日間、拘束されたという。

 膨大な裁判資料を読み込み、ほぼ実名で村木事件を描き直した場面は迫真である。自身の体験を踏まえ、無罪の人間を組織的に有罪に追い込む検察をこのまま放置していてはいけないという執念がみなぎる。

 筆者は1審で有罪判決。2審では検察が粉飾を指南したとする当日に日本にいないことが証明され、1審で粉飾決算を主導したと証言していた複数の証人が一転して、関与はなかったと証言を覆したから逆転無罪が期待された。しかし、結局、最高裁まで6年間闘い続けたものの有罪が確定した。

「有罪確定後は絶望の日々でしたね。裁判中に私の無罪を信じてやまなかった妻も亡くなり、1人で部屋に閉じこもっていると気がおかしくなってしまう。ですから、盆も正月もなく1年365日、会計コンサルタントとして働き続けました。切羽詰まった相談者には土日はありません。孤独な休みの日こそ、苦悩は深くなります。だから、営業時間の決められた公認会計士や弁護士に彼らを助けることはできません。公認会計士資格を剥奪されてから本当の会計士になれたと思っています」

 たとえ資格を失っても、腕利きの公認会計士だった筆者には企業から仕事が殺到した。

 本書には、豊富な実践的会計知識を使った企業の破綻処理や企業再生に汗を流した体験も紹介されている。どうしたら銀行が納得するか熟知する筆者が、巧みに融資を引き出す場面は読ませる。

 例えば、英会話教室ジオスの破綻処理では、社員へ賃金を支払うため資産売却に奔走した日々が書かれている。最終的にジオス傘下の「九段日本語学院」の社長に就任し、見事、優良企業に立て直している。

 本書の執筆中、飛び込んできた日産ゴーンの逮捕劇には運命を感じたという。

「証拠改竄事件から9年。特捜検察の威信をかけたゴーン逮捕ですが、会計のプロから見ると、有価証券虚偽記載や特別背任で有罪を立証するのは無理筋です。ゴーンさんの弁護人には村木さんの無罪を勝ち取った弘中惇一郎弁護士がついています。ゴーン逮捕は検察にとって致命的になるのではないか。でも、私は日本のためにはそのほうがいいと本気で考えています」

(岩波書店 1800円+税)

▽ほその・ゆうじ 1953年生まれ。78年早稲田大学政経学部卒業、82年公認会計士登録。78年から2004年までKPMG日本およびロンドンにおいて会計監査並びにコンサルタント業務に従事。04年キャッツ有価証券報告書虚偽記載事件で逮捕・起訴。著書に「公認会計士 VS 特捜検察」ほか。

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