「やし酒飲み」エイモス・チュツオーラ著 土屋哲訳

公開日: 更新日:

 やし酒は主に東南アジアやアフリカで飲まれる、やしの樹液を発酵させた醸造酒のこと。地域によってやしの種類や造り方が異なるようだが、本書の舞台、アフリカのナイジェリアでは、やしの幹を切りつけそこから滴る樹液をためて発酵させるらしい。造り方はさまざまだが造り手によって味が違うという。

 本書はお気に入りのやし酒造りの名人が死に、その名人に会うために死者の国へ向かう主人公たちの冒険譚だ。

【あらすじ】「わたし」は10歳のころからやし酒飲みで、やし酒を飲む以外には何もすることがない。おまけに父は町一番の金持ちで、他の兄弟は皆働き者だったが、長男のわたしは夜となく昼となくひたすらやし酒を飲む、まさに総領の甚六だ。

 やし酒を飲み続けて15年目、突然父が死に、次いでやし酒造りの名人も死んでしまう。新規のやし酒造りを探すが、あの名人のような酒を造る者は皆無。仕方なく死者の町にいる名人を探すことに。しかし行く先々で、居場所を教える代わりにいくつもの難題を押しつけられる。

 ある町では頭蓋骨だけの紳士にさらわれた町長の娘を救い出してほしいと頼まれる。実はわたしは「やおよろずの神の〈父〉」と呼ばれる妖術使いの神だったのだ。わたしは見事に娘を救い出して自分の妻とする。妻を伴って再び名人探しの旅に出るが、すべてあべこべの世界に生きる怪物や町中のあらゆるものが赤い町など、奇々怪々な世界が待ち受けている。幾多の困難を乗り越え、ようやく念願のやし酒造りの名人と会えたのだが……。

【読みどころ】民話や寓話を下敷きにして、なんともシュールな世界を描く本作は、読んでいるうちに酩酊状態に陥るような不思議な感覚を与える。アフリカ文学の最高傑作とされる名作。 <石>

(岩波書店 660円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

  3. 3
    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

  4. 4
    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

  5. 5
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

  1. 6
    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

  2. 7
    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

  3. 8
    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

  4. 9
    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異