「酒宴」(「金沢・酒宴」所収)吉田健一著

公開日: 更新日:

 民謡の「会津磐梯山」の中に「朝寝 朝酒 朝湯が大好きで それで身上つぶした」小原庄助なる人物が登場する。実在の人物ではないらしいが、白河市には「伝小原庄助」の墓があり、伏せた徳利を上にのせた墓石に辞世の句「朝によし昼になほよし晩によし、飯前飯後その間もよし」が刻まれているという。つまり、小原庄助さんは年がら年中酒を飲んでいたい、無類の酒好きだったということだ。

 本作品の語り手も「酒飲みというのはいつまでも酒が飲んでいたいもので、終電の時間だから止めるとか、原稿を書かなければならないから止めるというのは決して本心ではない」と言ってのける。

【あらすじ】語り手(他の吉田作品と同様、私や僕といった一人称はなく、「こっち」とか「我々」しか出てこない)は行きつけの銀座の「よし田」で杯を傾けていた。すると、近くで飲んでいた灘の酒造会社の技師で酒の鑑定家という人物と意気投合し、次なる店へと繰り出すことになった。あろうことなら、いつまでも酒を飲み続けたい人間と酒の専門家が会ったとなれば、おのずと酒とつまみの話に終始する。

 結局、朝まで飲んでも話し足らず、とうとう灘の会社まで同行することに。はじめに40石入りや70石入りの巨大な琺瑯引きのタンクが並ぶ酒工場の見学をして、夜は当然宴会である。並み居る酒豪を相手に献酬を重ねていくのだが、いつのまにか宴席には、先刻工場で見た青や緑のペンキで塗った大きなタンクが集まり、互いに献酬している……。

【読みどころ】吉田健一らしいペダンチックな語りと幻想とが入り交じって独特の味わいを醸す。何より酒やつまみの形容が秀逸。食と酒を描くお手本的な作品でもある。 <石>

(講談社 1200円+税)

【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手