「装幀室のおしごと。本の表情つくりませんか?」範乃秋晴著

公開日: 更新日:

 本のカバーや帯をデザインする装幀は、かつては裏方的な仕事とされていたが、1980年代になると装幀家が注目されるようになった。そのはしりは、山口百恵の「蒼い時」(1980年)を装幀した菊地信義で、大ベストセラーの「サラダ記念日」も菊地が手がけた。菊地はゲラ(校正刷り)を綿密に読み込んでからデザインを考えることで有名だが、本書に登場する装幀家は真逆で、ゲラを一切読まないことを信条としている。

【あらすじ】本河わらべは、大手出版社、仰見書房の装幀室に所属する入社2年目の装幀家のタマゴ。これからというとき、同じ大手の楠木社と合併して仰木社という新会社になった。装幀室も旧仰見書房と旧楠木社の双方の装幀家が合体し、4カ月は互いのやり方を擦り合わせるために各社2人1組で仕事をすることになった。

 わらべが組むのは、楠木社のベストセラーの半数の装幀を手がけた巻島。2人が装幀するのは「新撰組列伝」という時代小説。打ち合わせのため、担当編集者が巻島にゲラを渡すと、ゴミ箱に捨ててしまう。巻島いわく、ゲラを読むのは編集者の仕事で、イメージさえ言ってもらえればデザインできると。ゲラを読んで本の表情をつくるのが大好きなわらべは、これを見てあっけにとられるが、ゲラを読むわらべと読まない巻島がそれぞれ装幀案を出して良いと思う方を採用することになった。

 結果はわらべの惨敗。どうにも納得いかないわらべだが、その後一緒に仕事をやっていくうちに、なぜ巻島がゲラを読まなくなったのかの原因がわかる……。

【読みどころ】内容に関係なく装幀だけでベストセラーにすると豪語する巻島は極端ではあるが、装幀という仕事の魅力は伝わってくる。 <石>

(KADOKAWA 630円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    ひみつの本屋(熱海)商店街の路地で見つけた鍵を借りて入る無人本屋

  2. 2

    人生のどん底から救ってくれた保護猫と過ごした日々「キジトラのテコ」船ヶ山哲著

  3. 3

    柳原滋雄(フリージャーナリスト)なぜ中道改革連合が失敗したかに関心

  4. 4

    「フィジカルAIの衝撃『身体をもった人工知能』は2030年の世界をどう変えるか」田中道昭著/朝日新聞出版(選者:中川淳一郎)

  5. 5

    無謀な戦争の末路(1)イギリスに「東のスターリングラード」と呼ばれた激戦

  1. 6

    「沖縄を語りつぐ」川平朝清、ジョン・カビラ著│川平朝清氏の半生と沖縄への思いを長男ジョン・カビラ氏がインタビュー

  2. 7

    「米国や英国、中国の国歌は敵と戦うことを前提とした歌でいわば民衆の歌でもあったんです」──「国家と反国歌」小島岳彦氏

  3. 8

    野生動物が残したフィールドサインに注意「野生動物の痕跡図鑑」奥山英治著・写真

  4. 9

    「忘れ難い経験をしても、それを言葉にしておかないと、いつか霧のように消えてしまいます」──「刑務所の文章教室」大塚敦子氏

  5. 10

    「赤ずきんの運命、シンデレラの謎」斧原孝守著│さまざまなバリエーションがある赤ずきんの結末

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    WEST.重岡大毅の結婚にファンの怒りと落胆…“祝福されないアイドル”がやらかす「3つの誤算」

  2. 2

    巨人・阿部前監督「9月復帰」情報の真偽…読売グループ内には同情論も、懸案は…?

  3. 3

    中学時代をジャージーで過ごした鈴木奈穂子が、法政大女子高から大学に内部進学してNHK人気アナになるまで

  4. 4

    山本美月は九州の女子校で偏差値トップ「筑紫女学園」から明大農学部へ 祖父も生物教師の“リケジョ”

  5. 5

    北島三郎(4)「毎日が目標です。後ろへは戻れない」 地元・八王子のイベントで生涯現役宣言

  1. 6

    サンド伊達レギュラー14本…40~50代の芸人に仕事集中、「リスク分散」しなかった各局のダメージ度

  2. 7

    桑田真澄氏の発言が波紋 巨人の内部事情暴露のやけっぱち…来季監督の芽は完全消滅か

  3. 8

    狩野舞子は“ジャニーズのガーシー”か? WEST.中間淳太の熱愛発覚で露呈したすさまじい嫌われぶり

  4. 9

    WEST.重岡大毅の授かり婚の事後報告に“騙された”とファン激怒 あの目黒蓮も…今も難しいアイドルの結婚事情

  5. 10

    「24時間マラソン」満身創痍の星野真里が完走も…募金額46%減&ゴール直前の乱入騒動に非難の嵐