「やくしょのふたり」水沢あきと著

公開日: 更新日:

 2009年に設置された消費者庁成立の背景には、ガス湯沸かし器の一酸化炭素中毒事故中国製冷凍ギョーザ中毒事件など、縦割り行政による対応の遅れへの反省があった。本書の舞台は消費者庁ならぬ消費者省事故調査室。従来の省庁では対応が難しかった消費者行政に関する強い捜査権を持つ機関で、民間からの出向者を多数受け入れている。

【あらすじ】矢田聡司は大手家電メーカーの東実電器に就職が決まるが、入社早々、東実の電気ストーブの欠陥による火災で死傷者が出る事故が起き、設計ミスを知りながらリコールを怠っていたことも発覚。

 その3年後、消費者省事故調査室への出向を命じられる。企業の不正行為を監視するこの部署は、前科のある東実の社員である聡司にとって、いわば役所の人質のようなもの。無難にやり過ごそうと思っていた聡司だが、初出勤日に痴漢に間違われ、危ういところを女性に助けられる。

 お礼をしようとしたが、聡司が東実の社員とわかった途端、不機嫌もあらわに立ち去ってしまう。なんとその女性は職場の同僚の鏑木彩佳だった。彩佳は企業の不正を暴くのに異様なほどの執念を燃やしており、周囲から浮いていた。そんな彩佳に引きずられるように聡司は消費者を置き去りにして利潤を追求する企業に対峙するようになる。

 彩佳の不正企業に対する憤りは、双子の姉・彩乃の事故死が原因だった。しかもその彩乃と聡司は幼い頃に……。

【読みどころ】聡司と彩佳のほか、飄々としながらも体を張って部下を守る山沢室長、警察からの出向の刑事・野堀、ITスキルの高いシステムエンジニアの草壁など個性豊かな面々が一丸となって、役所らしからぬ自由さで事件を解決していく、風変わりなお役所小説。 <石>

(KADOKAWA 610円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  3. 3

    天皇と戦争の世紀(2)軍部の「大権干犯に当たらず」の説明に苛立ち

  4. 4

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  5. 5

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  1. 6

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  4. 9

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

  5. 10

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(3)「『石球城』殺人事件」北山猛邦著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    「マクドは健康保険と年金に加入できてよかった」 シニアが働き続けるために必要なこととは?

  3. 3

    徳川光圀(1)水戸黄門は全国漫遊などしていない 主に出かけたのは江戸と領地の往復

  4. 4

    東京・蒲田の2駅結ぶ蒲蒲線、大田区と地元を取材して分かった実現のハードルと地元の思い

  5. 5

    東京・大井町、OIMACHI TRACKSと対照的な東小路飲食店街、商店街理事長が直面する2つの問題

  1. 6

    NHK夏の音楽特番「うたであえたら」は北川景子のMCが見事 カオスと化した近年の紅白はお手本に

  2. 7

    「山口組」抗争指定解除へ、それでも対立は続く…6代目幹部「喜ぶのは早い」

  3. 8

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  4. 9

    止まらない高市首相SNS発信に官邸総動員の実態…この週末は3日間で11連投も「ゴキブリ」投稿で大炎上

  5. 10

    清水アキラさんが三男急死の直前に語っていた“せがれ”のこと 良太郎さんに口説かれものまねショー復帰