「免疫力」藤田紘一郎氏

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「感染しても、発症しないことが最も重要」

 新型コロナウイルスについて、本書の冒頭ではこう強調されている。「絶対感染しない」ではないのがポイントだ。本書は感染免疫学の専門家として50年近く研究を続ける著者が、ウイルスに負けないための免疫力について、基礎知識から免疫アップの実践方法まで解説した一冊だ。

「新型コロナ最大の特徴は、第1に、SARSやMERSと違って無症状の感染者が非常に多いということ。第2に、死亡率が国や地域によって大きく違うということです。この2つの特徴を、なぜだと追究して最近わかってきたのが、自然免疫の働きが大きいのではないかということです。日本人も自然免疫が高かったから、欧米のような強力なロックダウンをしなくても重症者や死者数が増えなかった。3月、4月には、把握できていない無症状や軽症の感染者が実際はもっといたと思います」

 免疫とは感染の防御・健康維持・老化予防の体内システムだ。自然免疫と獲得免疫の2種類があり、自然免疫は生まれながらに備わっているもので、病原体などを発見し真っ先に闘う。一方、病気に感染することで抗体ができ、後天的に備わるのが獲得免疫だ。

「日本人の自然免疫が高いのは、BCGを接種していたからだと考えています。BCGは結核予防のワクチンですが、実は自然免疫を高める効果もあるんです。これをオフターゲット効果といいます。死亡率の高いアメリカやイタリアはBCGをやっていませんし、隣国同士でもBCGをしていたポルトガルは新型コロナの死亡率が低く、していなかったスペインは非常に高い。ドイツでも、90年までBCGをやっていた旧東ドイツ地域は旧西側と比べて感染者数が著しく少ないという調査結果が出ていたりと、効果は明らかです」

 こうしたことは、最近ようやくわかってきたのだと著者は言う。

「これまでは仕方ないですが、わかったことがあるなら方針を覆すべきです。ところが製薬会社の新たなワクチン開発や輸出を優先したい国は、BCGの有効性を認めようとしません。私はワクチン開発はそう簡単にいかないと思いますよ。新型コロナは獲得免疫を誘導しにくい、つまりワクチンで抗体ができても長くもたないと、わかってきましたから。でも自然免疫が強ければ、感染しても無症状か軽症で済む可能性が高いんです」

 本書では2章から4章を割き、免疫を高める生活習慣や食べ物について具体的に解説する。

 夜型生活や保存料を避けること、免疫の7割をつくる腸の環境を整える発酵食品や玉ネギなどの他、意外なところではステーキを週2回、酒もほどほどなら推奨されている。

「50歳以上の場合、糖の取り過ぎはよくありませんね。炭水化物を減らして、食前に酢キャベツ(酢漬けキャベツ)を100グラム食べるのが今のお勧めです。腸内環境にもダイエットにもいいですよ。免疫の残り3割は心、つまり精神状態によってつくられますから、ストレス緩和になるなら酒も飲んでいいんです。あとは嫌な相手と食事しないこと(笑い)」

 今は非常事態ゆえにある程度の手洗いは必要としながら、過度な潔癖にも要注意だと言う。

「除菌し過ぎると必要な皮膚の常在菌まで殺してしまい、本来備わっているバリアー機能を低下させますし、細菌のおかげで免疫は鍛えられます。免疫は細菌や微生物を排除するためではなく、それらと共生するための機能なんですよ」

(ワニブックス 880円+税)

▽ふじた・こういちろう 1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学名誉教授、医学博士。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。寄生虫体内のアレルゲン発見、ヒトATLウイルスの伝染経路研究などの業績で受賞多数。著書に「笑うカイチュウ」「清潔はビョーキだ」「アレルギーと腸内細菌」など。

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