中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<24>真っ先に家族を疑うなんて非情

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〈4〉

 捜査会議の席上で犬養が披露した仮説は、おそらく村瀬や津村たちが念頭に置いていたものを代弁したに過ぎない。だが考え得る可能性の一つであることに間違いはなく、長山富秋と亜以子には個別に尾行要員が充てられた。

「ですが長山瑞穂の葬儀には俺と高千穂を行かせてください」

 会議後、人員配置を考えていた麻生に対して犬養が申し出た。

「お前たちは二人とも長山家の人間に顔が割れているだろう」

「何も葬儀に参列するつもりはありません。撮影可能な距離から観察するだけです。葬儀の席であの父娘がどんな振る舞いを見せるか確認するべきだし、安楽死を請け負った模倣犯が斎場に顔を出す可能性もゼロではないでしょう」

「ふん。女はともかく、野郎の表情や仕草から嘘を見抜くのが特技だったな。くれぐれも気取られるなよ」

 麻生が立ち去ると、明日香が無遠慮に顔を近づけてきた。

「犬養さんはまだあの父娘を疑っているんですか」

「現時点で否定できる材料は何もない。管理官に言った通りだ」

「わたしには、あの二人が心底悲しんでいるように見えました」

「しかし安楽死に断固反対するという態度でもなかった。特に娘の方は顕著だ。彼女が安楽死を依頼したという線は決して細かない。依頼主が母親だとして、それを幇助していたとも考えられる」

「どんな思考回路してたら、そんなことが考えられるんですか」

 明日香は下から睨めつけるように見る。まるで因縁をつけるチンピラだ。明日香は被害者遺族に肩入れし過ぎる傾向があるが、今回も例に洩れない。

「わたしと一緒に長山さんの家の中を見ましたよね。莫大な資産がある訳じゃなく、家屋も中古の戸建て。家族で争うような遺産も発生しません。それなのに真っ先に家族を疑うなんて非情すぎやしませんか」

「非情じゃない。愛情だ」

「どういう屁理屈です」

「家族をなるべく死なせたくないのも、なるべく苦しませたくないのも、根っこにあるのは同じ思いやりだろう」

 我ながら説得力のある台詞だと思ったが、明日香は疑わしそうな目でじろじろと無遠慮な視線を投げて寄越す。

「何か不服でもあるのか」

「いえ。今の台詞、犬養さんにしては出来過ぎなような気がして。いったい誰の盗作ですか」

 まさか娘から聞かされたとは言えず、犬養は口を噤むしかなかった。

 (つづく)

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