中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<25>斎場の周囲を報道陣が取り巻き

公開日: 更新日:

 長山瑞穂の葬儀は台東区の区民斎場で執り行われた。

 犬養と明日香は道路を挟んだ区役所の敷地内から斎場全体を見渡す。目視での観察とズーム撮影を併用して参列者一人一人をチェックする。必要な場合には集音マイクで音声を録る。

 斎場に駐車スペースはないものの、徒歩一分の距離にバス停留所、五分の距離に日比谷線上野駅が控えているので交通の便は悪くないはずだった。

 ところが百五十人は収容可能と思える斎場にも拘わらず、参列者は数えるほどしかいない。学生服姿は亜以子の友人なのだろうが現在は三人ほど、親戚筋か近隣住民らしい者は七人しかいない。一方、斎場の周囲にはマイクやカメラを持った報道陣が取り巻いており、記帳所に向かおうとする参列者を捕まえてはインタビューを試みている。手掛かりに繋がりはしないかとこうした声も全て録音しているが、内容を聴いている明日香は終始苦虫を噛み潰したような顔をしている。

『長山家葬儀に参列されるんですよね。遺族とはどのようなご関係なんでしょうか』

『生前の長山瑞穂さんをご存じですか。いったい、どんな人だったんでしょうか』

『夫婦仲はよかったんですか』

『たとえば、以前はよく口論が絶えなかったとか』

『あなた、長山亜以子さんのお友だちですよね。普段、亜以子さんはお母さんのことをどんな風に言っていたんですか』

「大方予想していた通りの質問で、嫌になる」

「予想できるような質問しかしないから当たり前だ」

「あんなインタビューして、よく自己嫌悪に陥りませんよね。遠回しに家族の誰かが安楽死を依頼したんじゃないかと決めつけてるじゃないですか」

「奴さんたちは視聴者がそういうことを聞きたい下衆野郎たち揃いだと信じて疑わない。しかも仕事だと割り切っているからな。そういう汚れ仕事なんだと割り切れば、便器の中にでも平気で顔を突っ込める」

 我ながら辛辣な物言いだと思ったが、インタビュアーの質問を聞いていると義憤にも似た怒りがふつふつと湧き起こるのを抑えられない。

 誤情報を流さない、デマを拡散させないためには、可能な限り遺族に接近して正しい情報を掻き集めるしかない。以前、社会部の記者から言われたことを思い出す。だが報道する側に思い込みがあれば、接近はより危険でしかない。

「百歩譲って長山家の誰かが安楽死に加担していたとして、共感や同情の観点から報道しようと思わないんですかね」

「現状、安楽死に関わるのは違法行為だから、スタンスとしては容疑者に是非を問うかたちになるんだろう。ただし、それだって人の心に踏み込むことに変わりはない。自分が撃たれてもいいくらいの覚悟がない限り、軽々にするものじゃない」

 (つづく)

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