隠された魅力を発見!絵画読み解き本特集

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「くらべて楽しむ西洋絵画」岡部昌幸監修

 絵画を眺めて「美しいなぁ」と感動するのもいいけれど、少し変わったアングルから絵画の裏側を読み解けるようになれば、楽しみ方の幅も広がるというもの。絵画の時代背景やメッセージを学べる4冊と、絵画鑑賞の息抜きにもなるユニークな博物館本を紹介しよう。



 愛と美の女神であるビーナス(ギリシャ神話のアプロディテ)。中世以来、裸婦を描くなら聖書の登場人物か神話の女神という建前があったため、ビーナスはヌード画を描く格好の口実となってきた。

 特に有名なのが、ルネサンス期のボッティチェリによる「ビーナス誕生」。体をS字にくねらせ胸と股間を手や髪で隠す“恥じらいのポーズ”は以降、ビーナスを描く定石となっている。例えば1879年ごろ、ブグローが描いた「ビーナス誕生」は、恥じらいのポーズを継承しつつ、両手を頭上に掲げて胸をさらけ出している。

 また1863年に絶賛を浴びたカバネルの代表作である「ビーナス誕生」は、S字にくねらせた体を横たえ、弛緩した上半身と緊張した下半身、反り返った足の指が事後のエクスタシーを思わせる官能的な作品だ。

 ジャンルやテーマごとに比べることで、絵画を楽しむ幅が広がりそうだ。

(成美堂出版 1500円+税)

「博物館ななめ歩き」久世番子著、栗原祐司監修

 京都国立博物館副館長であり、6200館以上を巡った博物館フリークがオススメする、全国のユニークな博物館をマンガで紹介。

 この時期に行ってみたいのが「小さなカルタ館」。東京は神保町にある奥野かるた店の2階にあり、絹地に描かれた美しいかるたや木で作られたずっしりと重い板かるたなど珍しいかるたがそろう。

 都心にあるとは思えない緑の多さに圧倒されるのは、港区白金台の東京都庭園美術館だ。もともとは1933年に朝香宮邸として建てられたもので、アールデコ様式の本館や広大な庭園から成るミュージアム。ガラス工芸家であるルネ・ラリックによるシャンデリアは一見の価値ありだ。

 他にも、墨田区の神社の境内にある鍼灸あん摩博物館、千駄木の住宅街にあるファーブル昆虫館、府中市の熊野神社古墳展示館、ビジネスマンなら一度は行ってみたい名刺と紙製品の博物館など、知られざる博物館情報が満載だ。

(文藝春秋 1200円+税)

「怖くて美しい名画」春燈社編

 聖書や神話などの物語を背景に、西洋絵画には残酷な作品が数多く存在する。共通しているのは、視覚的に呼び覚まされる恐怖や痛み、そしてエロスだと本書は解説する。

 新約聖書に描かれるヘロディアの娘、のちにサロメの名で知られる少女は、舞踏を披露した褒美として、キリストに洗礼を与えたヨハネの首を求める。ティツィアーノの作品では、首だけになったヨハネの髪がサロメの腕にかかり、独特の官能表現を見せている。

 同じく男の首を求める女性は、聖書外典の「ユディト書」にも登場する。町に攻め込んだ敵将をユディトは誘惑し、酒に酔わせたところで首を切り落とす。マセイスが描いたユディトは、美しい胸をあらわにし聖母のようなほほ笑みをたたえて生首を持つ。

 ユディトは民族を救った英雄として描かれる一方、19世紀以降はクリムトの「ユディトⅠ」に代表されるように、男性をたぶらかす毒婦としても描かれていることが興味深い。

 表裏一体の死とエロスに圧倒される。

(辰巳出版 1400円+税)

「中野京子の西洋奇譚」中野京子著

「ハーメルンの笛吹き男」といえば、奇妙な服装の男が笛の音で130人もの子供たちを誘い、いずこかに連れ去ってしまったというお話。その最古の絵となるのが、ハーメルン市の教会のステンドグラスに描かれたガラス絵を模写した、16世紀後半の彩色画だ。

 この絵のもととなった出来事は市の公文書にも記された事件であるが、実は謎が多い。絵にもネズミが描かれるように、市からネズミ退治を請け負った笛吹き男が約束の金が払われなかったことで子供をさらったというストーリーだが、実際にはネズミの話も市の裏切りも記録にはないという。

 伝染病に罹患した子供たちを町の外に連れ出して捨てた説、笛吹き男は徴兵係で子供十字軍としてエルサレムへ連れ去られた説など、世界中の研究者が論考を発表している。しかしいまだ万人を説得させるに足る定説はないという点も恐ろしさを倍増させる。

(中央公論新社 1700円+税)

「名画はおしゃべり」木村泰司著

 時代背景や作品が持つメッセージを通じて、名画を読み解くヒントを提示する本書。

 世界は今、コロナ禍にあるが、14世紀中ごろにもヨーロッパでペストが大流行し、2500万人が命を失ったとされている。その結果、この時代にはブリューゲルの「死の勝利」に代表されるような、“死”をテーマにした絵画が数多く制作されている。

 そして、疫病に対する守護者が絵画に描かれるようになったのもこの時代だという。例えば、キリスト教徒であることが露見し射殺されたローマ帝国の軍人、聖セバスティアヌス。木か柱に縛り付けられた裸体の男性に矢が刺さっているさまが描かれていたら、それは間違いなく聖セバスティアヌスだ。このような“決まり事”を知っておくのも、絵画を読み解く上で参考になる。

 厳格なブルジョワ階級の出身だったマネ、現在でいう“下ネタ系親父ギャグ”を好んだルノワールなど、画家の人となりにも迫っている。

(ワニブックス 1300円+税)

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