ニューヨークの古書店を活写するドキュメンタリー

公開日: 更新日:

「ブックセラーズ」

 コロナ禍でアマゾンに押されっ放しの小売業界だが、元はアマゾンもネット書店。海外書籍の入手しやすさで最初に大学教員らが飛びついた。おかげで昔ながらの洋書店が干上がり、独自の選書眼で鳴らした東京堂書店の洋書売り場までが閉じてしまった。

 書店の苦境は海外も同じ。「ブックセラーズ」はそんなドキュメンタリーだ。

 舞台はニューヨーク、対象は古書店。古書は半分は書籍、半分は美術品や骨董品に類する特異な商品だけに一部の超高級希少本の古書商はネットで評判を確立したという。だが古書の魅力はほどのよさ。超のつかない高級書からまあまあ珍しいという程度の本こそ、古書店が目利きかどうかで大きく値も分かれるのだ。

 本作でも昔は368軒あったマンハッタンの書店が79に激減という嘆きが聞かれる。ストランドやアーゴシー書店など老舗の跡取り(なぜか女性が多い)の昔話も楽しい。

 面白いのは昔の古書店は「店が客を教育する」場だったという話。客は古書店で読書の鑑賞眼を養ったわけだ。実は筆者はいまアメリカのレンタルビデオ店の盛衰を論じた映画産業史の本を訳しているが、そこにも同じくレンタル店のベテラン店員が映画好きの客に「映画のよしあし」を教えたものだ、という話が出てくる。歌舞伎の見巧者が歌舞伎座の客席で鍛えられるのと同じなのだ。

 本屋で思い出すのがかつて異色のグループサウンズと呼ばれたジャックスの早川義夫が、歌手をやめて開いた早川書店。郊外の駅前書店だが、さりげなく異色の本が奥に置いてあり、本人も奥さんと交代で店番をしていた。アマゾン進出前に閉店して歌手に復帰したが、奥さんが病没、失意をかこったと聞く。

 早川義夫著「女ともだち――靜代に捧ぐ」(筑摩書房 1650円)はその奥さんへの追悼エッセー集。心にしみる随想である。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志氏はパチプロ時代の正義感どこへ…兵庫県知事選を巡る公選法違反疑惑で“キワモノ”扱い

  2. 2

    タラレバ吉高の髪型人気で…“永野ヘア女子”急増の珍現象

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    《#兵庫県恥ずかしい》斎藤元彦知事を巡り地方議員らが出しゃばり…本人不在の"暴走"に県民うんざり

  1. 6

    シーズン中“2度目の現役ドラフト”実施に現実味…トライアウトは形骸化し今年限りで廃止案

  2. 7

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  3. 8

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 9

    大量にスタッフ辞め…長渕剛「10万人富士山ライブ」の後始末

  5. 10

    立花孝志氏の立件あるか?兵庫県知事選での斎藤元彦氏応援は「公選法違反の恐れアリ」と総務相答弁