息苦しさの社会

公開日: 更新日:

「世間体国家・日本」犬飼裕一著

 いまの日本は息苦しい。政治も経済も明るい未来を描けないまま、社会の「分断」ばかりが進んでいる。どうなってしまったのか、ニッポン。



 近ごろあまり聞かなくなったような気がするのが「世間体」。社会学者の著者はこれを「他者からどう見られるか、どう評価されるかを気にすること」と定義する。要は他人の目を気にして自分の行動を縛るというタイプの同調圧力だが、正反対に思われるナルシシストは実は自分に自信がなく、「自分を支えるために絶えず自分に対する周囲からの称賛を必要とする」という。

 日本の世間体は一種の宗教のようだが、西洋の宗教につきものの「愛」はなく、それに代わって「和」がある。ただ、心理学の専門家の実験によれば日本人が特別に同調圧力を受けているわけではないのだが、日本には独特の「純血主義」があり、一度でも失敗すると「落伍者」のレッテルを貼られて、「再出発ができない・しにくい」。個々人ばかりではなく、社会や政治全体も同じ。たとえばバブル経済崩壊後の「失われた20年」は「失敗を恐れる心」がもとになっているのだ。

 では、なぜこのような日本社会が生まれたのか。著者は日本が明治維新と敗戦という2度にわたる「文明的断絶」を経験したことを重視する。どちらのときも過去の自分を否定し、新しい「良い自分」を演じるために、「真面目にひたむきに生き続け疲弊している」という。

(光文社 968円)

「共感という病」永井陽右著

 1991年生まれの著者はテロ組織やギャング集団などから社会に復帰しようとする人々を支援するNPO法人の代表。つまり社会の多数者から「共感されにくい」存在をかたわらで支える立場だ。

「今の日本社会を見ると、共感がすごくもてはやされて」いるように見えるという。しかし共感は容易に反転し、「共感できない相手」をよってたかって袋叩きにする心にもつながる。「民族浄化」などをうたい文句にしたジェノサイド(大量殺戮)などは「共感中毒」のなせる業ではないのかと問うのだ。

 これを言い換えると「行きすぎた同調圧力」になる。SNSで「いいね」の数が増え、コメント欄でお互いが大げさに褒め合っているような光景も、実は同調圧力の効果なのかもしれない。「共感」の負の側面を考察する。

(かんき出版 1430円)

「THE LONELY CENTURY なぜ私たちは『孤独』なのか」ノリーナ・ハーツ著 藤原朝子訳

 長年、英ケンブリッジ大学で「国際ビジネス・経営センター」の要職にあった著者。いまは名誉教授として世界の財界人や政治家のコンサルタントを務める立場で説くのは、孤立感や無力感にさいなまれる現代人への助言だ。いま、私たちの周りには「世界に広がる絶望の連鎖」があるという。高齢者はもとより、働き盛りの現役世代の中でも「職場で独りぼっち」の気分を内心かかえている人は少なくない。

 たとえば、職場に決まった座席をつくらない「フリーアドレス」や「オープンオフィス」は流行の先端だが、著者によるとここで働く人間は隣席の人と自由に話すより、「メールやチャットによる交流」に走って「社会的に引きこもる」傾向が強くなる。ただでさえ孤独な時代に生きる私たちは、さらにコロナ禍でバラバラになっているのだ。

(ダイヤモンド社 2420円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢