「シンデレラ・ティース」坂木司著

公開日: 更新日:

 幼いころに歯医者へ行ってあまりに痛い思いをして、それ以後歯が痛くても我慢したり、歯科医院に行くことを拒否したり、ひどい場合には嘔吐や顔面蒼白、パニック障害を起こすこともある歯科恐怖症(デンタルフォビア)に悩んでいる人は意外に多い。一説では日本でも500万人以上いるといわれている。本書の主人公もそのひとり。

【あらすじ】叶咲子(サキ)は大学2年生。小学校低学年のときに集団の歯科検診で虫歯が見つかり初めて歯医者の門をくぐり、いざ治療。すると激痛とともに口の中に血の味が広がる……。サキの記憶はそこで途切れ、以来歯医者に行くといわれるとひたすら逃走していた。

 そんな彼女が母の陰謀で、あろうことか叔父の唯史が勤務する歯科医の受付でアルバイトをする羽目に。最初はすぐにも逃げ出そうと思ったサキだが、時折セクハラまがいの発言はするがおおらかな品川院長、スタイル抜群でセクシーな美人歯科衛生士の歌子さん、無愛想な職人肌の歯科技工士の四谷など、患者を第一に考える病院スタッフに囲まれながら、仕事を楽しむようになる。

 受付にも少し慣れてきたころ、ある女性患者の彼氏が、この病院は治療に時間をかけすぎだと怒鳴り込んできた。事実無根の文句にスタッフは戸惑うが、技工士の四谷の推理で、患者女性がある秘密を抱えていることが判明する……。

【読みどころ】その他、口臭に悩む中年男性、感情の起伏の激しい会社のお偉いさん、歯科恐怖症をひた隠しにするサラリーマンなど、歯科医にまつわるさまざまな問題をミステリーに仕立て、小気味よく解決していく。歯科恐怖症の人も読み終わったときには、サキと同じく、恐怖症がいくらか治まっているかもしれない。 <石>

(光文社 628円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    全英V山下美夢有の「凱旋フィーバー」は望み薄…6年前の渋野日向子と決定的な違いとは?

  2. 2

    金足農・吉田大輝は「素質は兄・輝星以上」ともっぱらだが…スカウトが指摘する「気がかりな点」

  3. 3

    叡明(埼玉)中村監督「あくまで地元に特化したい。全国から選手を集めることは全く考えていません」

  4. 4

    中居正広氏に新事実報道!全否定した“性暴力”の中身…代理人弁護士は「出どころ不明」と一蹴

  5. 5

    東洋大姫路(兵庫)岡田監督「大学からは『3年で』と言われたけど、ナンボ何でも無理ですと」

  1. 6

    国民民主“激ヤバ”女性議員の選挙違反疑惑には党本部が関与か…ダンマリ玉木代表に真相究明はできるのか?

  2. 7

    清原和博さんの「思わぬ一言」で鼻の奥がジーン、泣きそうに。チーム内では“番長”とは別人だった

  3. 8

    嫌というほど味わった練習地獄と主力との待遇格差…俺の初キャンプは毎日がサバイバルだった

  4. 9

    例年の放送目前に「今年は27時間テレビないのか」の声が続々 2011年には中居正広氏に「女性に溺れる」との予言の因果

  5. 10

    巨人の正捕手争い完全決着へ…「岸田>甲斐」はデータでもハッキリ、阿部監督の起用法に変化も