「誤飲」仙川環著

公開日: 更新日:

 医師が処方した薬は、他人に譲ったり服用させることは禁じられており、違反した場合には罰則が科される。現に、薬剤師が向精神薬を転売目的で中国人ブローカーに横流ししたとして、逮捕されるなどの事件も起きている。本書にはそうした横流しも含めて、日常的に手にしている薬をめぐって引き起こされる人間模様を描いた連作短編。

【あらすじ】藤本洋文は医療機関の経営コンサルタント。かつていよいよ独立しようとした矢先、妻から妊娠したと告げられた。独立して落ち着くまで子供は待とうといっていたのに、35歳の妻は年齢的に今しかないとコンドームに穴を開けて藤本をだましたのだ。

 秋枝と再婚したのも、彼女が子供を欲しがらなかったからだが、近所の小野恭子の娘を溺愛して子供を欲しがっている様子。困った藤本は知り合いの医者からピルを入手し、ビタミン剤と偽って秋枝に飲ませる……。

 小野恭子の夫の厚之はリストラされて以来恭子に暴力を振るうようになり、無理難題を押しつけてくる。インフルエンザがはやり、娘にもワクチン接種をすることになったが、ワクチンの副反応を恐れた厚之は恭子に抗ウイルス薬のキルフルを手に入れるように命じる。治療もしないで手に入れられるはずがないのだが、夫の暴力を恐れた恭子は、薬局でキルフルを処方された見知らぬ青年に余った薬を譲ってくれるように頼む……。

【読みどころ】その他、ニコチン依存症に苦しむ女性カウンセラー、薄毛の薬を使っていることを隠そうとする医師、最後には冒頭の秋枝が再登場して、恭子の夫にある薬を手渡すことになる──。

「薬も過ぎれば毒となる」ということわざがあるが、それを左右するのは人間の中の毒だということを痛感させる、ひと味変わった医療ミステリー。 <石>

(小学館 628円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか