グリーン・ニューディール

公開日: 更新日:

「グリーン・ニューディールを勝ち取れ」ヴァルシニ・プラカシュほか編著 朴勝俊ほか訳

 話題の「グリーン・ニューディール」。コロナ禍でもウクライナ危機でも放置できない環境問題への抜本的対策だ。



 トランプ政権下の2018年、米中間選挙で話題となったのがオカシオコルテス下院議員らの若手左派の登場。彼らを中心に民主党上層部に鋭く迫ったのが党の政策綱領における「グリーン・ニューディール」の採用だ。

 ニューディールは1930年代の大恐慌時代に展開された経済政策。これに範を取って危機迫る環境問題への抜本的・総合的な政策を展開すべきというわけだ。本書はこの主張の担い手として最も活動している米「サンライズ・ムーブメント」の創設者コンビが編集した運動メンバーのメッセージ集だ。

 運動の多くはミレニアル世代やZ世代など10代から30代半ばまでの若手世代。彼らは18年に米下院民主党のN・ペロシ氏のオフィスを占拠し、対策を訴える若者たちのメッセージと歌でアピールした。51人のメンバーが議会警察の手で逮捕されたニュースは翌日の新聞の1面トップを飾る。もちろんこれこそが彼らの狙いだったのだ。そんな体験談から提案の具体策にいたるまでが述べられる。寄稿者の中にはノーベル賞経済学者のJ・スティグリッツらも含まれ、単なる若者の夢想とは異なる説得力を放っている。

(那須里山舎 2640円)

「グリーン・ニューディール」明日香壽川著

 長年にわたって「環境よりも経済」を発想の基本としてきたのが日本。公害問題が大きな関心を集めた際の公害対策基本法にも「経済の健全な発展との調和」という文句が明記されている。しかしこれはもはや古すぎる考え。特にコロナ禍での打撃からの復興を「気候変動対策と共に進める」という「グリーン・リカバリー」(緑の復興)がこの2年ほどのうちに急速に研究者や国際機関で使われるようになったという。

 本書の著者は環境エネルギー政策を専門とする東北大教授。1990年代から環境政策のCOP(締約国会議)にオブザーバーとして参加してきた経験を持ち、いま日本でグリーン・ニューディールを語る第一人者といってよいだろう。

 一刻も放置できないレベルにある気候変動。本書は喫緊の対策の基本を学ぶ格好の入門書だ。

(岩波書店 946円)

「資本主義・デモクラシー・エコロジー」千葉眞著

 9.11同時多発テロに始まったこの20年間、世界は激動した。最も問題視されたのが加速する資本主義による格差の急拡大と、不満を爆発させた民衆による異議申し立てが引き起こした民主主義のゆらぎだ。ICU(国際基督教大)で長年教壇に立った政治学者の著者によれば、「デモクラシー、ナショナリズム、資本主義」という「3頭立ての馬車」が19世紀に隆盛し、20世紀の第1次世界大戦を過ぎても生き延びた。

 しかし20世紀も終わりに近づくとほころびが拡大し、新自由主義のグローバルな拡大により、逆にナショナリズムへの回帰が生まれた。加えて都市化や資源の減少、種の消滅、ゴミの廃棄など「文明の累積的衝撃」による環境破壊は放置できなくなった。著者はグリーン・ニューディール論の中にある多様な立場をより分け、資本主義に対しても論者による違いが大きいことを説明している。

(筑摩書房 1980円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」