著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「がきデカ」(全26巻)山上たつひこ作

公開日: 更新日:

「がきデカ」(全26巻)山上たつひこ作

 この「がきデカ」を紹介するかどうか迷った。ハチャメチャすぎて今の若い人たちに理解できるのか疑問だからだ。

 主人公は夏休みに警察学校を卒業して日本初の少年警察官となった小学生。「がきデカ」の《デカ》は刑事のことだ。風貌は小学生とは思えないほど怪異で頭が異様にでかく2頭身、つまり頭の大きさと体の大きさが同サイズ。

 その巨大な頭に警察の制帽をかぶり、意味のわからないギャグを連発する。

「死刑!」「あふりか象が好きっ!」「八丈島のきょん!」「白クマ黒クマ白クマクマ、赤ブタ青ブタ赤ブタブタ」「ニホンカモシカのおしりっ」

 私たち当時の小学生は意味のわからぬそのギャグの数々に抱腹し、学校で真似をした。とくに「死刑!」はそのポーズとともに大人たちにまで流行した。

 エキセントリックなこの前衛漫画は文芸評論家たちにまで絶賛され、それまで「小説が上、漫画は下」とする潮の流れまで一部で変えてみせた。実際、作者の山上たつひこは1980年に「がきデカ」の連載を終えると小説家に転身して純文学に挑みはじめる。現在ではその小説のほか漫画原作者としても活躍し、2014年には文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞するなどしている。

「サブカルの王道たる漫画家が道の真ん中を走っていては漫画家として2流に落ちたのではないか」と若漫画ファンは思うかもしれない。

 しかし違う。「がきデカ」は今も日本漫画界に影響を与え続けている。小学生のときリアルタイムで「がきデカ」を読んでいた私たち世代は、すぐあとに出てきた警察ギャグ漫画に驚いた。作者の名前は《山止たつひこ》。山上たつひこを尊敬しすぎて《上》を《止》に1字変えただけのふざけたペンネームでデビューしてしまった。

 この次世代のギャグ漫画家のホープはすぐに売れ始め、「一発屋ではないのだから真面目なペンネームを」と編集部に請われて名を変えた。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」という長い名前のこの作品、後に単行本200巻となってギネス世界記録の「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」となり、多くの後発漫画に影響を与えた。

 つまり現在人気のあらゆるギャク漫画の源流は「がきデカ」なのだ。いかにあの作品が偉大だったかわかるであろう。

(秋田書店 499円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日向坂46「ひなたフェス」中止でもファンは宮崎へ「43億円」を動かした“推し活地方創生”の底力

  2. 2

    令和版『八つ墓村』にはこれまでにない「2つの見どころ」あり Jホラーの名匠と新・金田一耕助が魅せる

  3. 3

    「橋上代行昇格は絶対ない」 巨人来季監督に浮上する松井秀喜氏、高橋由伸氏に次ぐ「第3の男」

  4. 4

    青学大の4年間は「ひたすら駅伝を目指す」だけじゃない 今夏は初の海外合宿に踏み切った

  5. 5

    巨人・阿部前監督が球団復帰へ着々 「辞任4カ月での出戻り」は毒になるか、薬になるか

  1. 6

    佐々木朗希の最悪すぎる“退団劇”…ロッテから優秀スタッフ3人を引き抜き、大顰蹙を買っていた

  2. 7

    元関脇嘉風・中村親方〈1〉なぜ「朝稽古をしない」のか? 角界の常識から“あえて外れる”部屋づくり

  3. 8

    桑田真澄氏の発言が波紋 巨人の内部事情暴露のやけっぱち…来季監督の芽は完全消滅か

  4. 9

    六代目との抗争終結で勝ちどきをあげているのは絆會

  5. 10

    コメ農家廃業ラッシュ&米国産ジャガイモ輸入解禁に生産者猛反発! 農水省にはブーイングの嵐