ブラック労働に立ち向かう

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「ブラック企業戦記」ブラック企業被害対策弁護団著

 異様な物価高のもとでブラック労働はむしろ広がっている。



「ブラック企業戦記」ブラック企業被害対策弁護団著

「ブラック企業」というコトバ、ひところよりも聞かなくなった。しかしそれはブラック職場が減ったからではない。むしろブラック労働は当たり前になって注目を引かなくなったからだ。

 それを実感するのが本書。最初に紹介されるのが家政婦紹介所から介護付き有料老人ホームの入居者の下に送られた例。紹介所の話ではふつうの家政婦の仕事。ところが実際は人工肛門の装具の交換から食事介助、入浴介助が中心で「家事」は一部。しかも24時間勤務で日給1万1700円。休みたいときは紹介所に交代要員を依頼。しかも契約上は紹介所の法人の一員(職員)扱いで、そこから給料が支払われる形だった。つまり家事使用人ではなく、実際には紹介所に属する介護職員だったのだ。

 未払いの残業代の支払いを求めるかたちで起こされた訴訟では、東京裁判所立川支部でも会社はブラックぶりを発揮。ついに裁判長がブチ切れるほどだったとか。コンプライアンスのすきまを狙ってブラック労働は社会にいくらでも巣くうことがよくわかる。

 豊富な実例を次々に紹介する現代ニッポンのトホホな実像。 (KADOKAWA 1166円)

「働くことの小さな革命」工藤律子著

「働くことの小さな革命」工藤律子著

 ブラック労働問題は、当初ブラックな企業の話にとどまっていたが、いまでは認識が大きく広がった。

 ブラック労働は格差問題に直結。格差問題はグローバル資本主義に直結するからだ。

「これまで通りの資本主義経済をただ続けていては、ダメだ」。冒頭からこう言い放つ著者も同じ認識だろう。「経済成長ありきの競争社会」が社会に植え付けた常識をひっくり返し、「社会的連帯経済」に転換してゆく必要があるという。

 学生時代からメキシコの貧困問題に関心を持ち、フリージャーナリストとして世界各地のストリートチルドレンにも温かな目を注いできた著者だけに、決然とした物言いは豊富な取材経験に裏付けられたもの。右肩上がりの経済ばかりをよしとする社会常識に背を向けて、スローな共助を目指す道は、縮小する未来を避けられない日本にとっても有効な選択肢のひとつになるはず。

 ブラックな資本主義を乗り越えて、人の暮らしと環境を軸としたホワイトな「つながりの経済」を目指す提言だ。 (集英社 1100円)

「ビジネスと人権」伊藤和子著

「ビジネスと人権」伊藤和子著

 人を人とも思わないやり方で搾取と蹂躙を続ける企業。いま、そんな企業とその背後に横たわる経済思想そのものが強い批判にさらされている。国際人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」の創設メンバーで弁護士の著者は、世界的な視野から日本企業が抱える人権問題に迫る。

 たとえばユニクロ。香港の人権団体がユニクロの生産委託先の中国企業に潜入調査をかけたところ、劣悪な労働環境に悲鳴を上げる労働者たちから「まるで地獄」との証言があったという。2014年の話だから、おそらく現在では事情が違うはず。ユニクロがやり方を改めたから? いや、経済発展をとげた中国では賃金が上がり、劣悪な環境では割に合わなくなった。そのためユニクロなどファストファッションの委託先はベトナムやミャンマーなどに移ったからだ。場所が変わっただけなのである。

 著者はこうした現場では女性や被差別社会の出身者、また子どもなどが多数搾取の対象になっているとして多数の実例を挙げている。

 ブラックの域を超えた奴隷労働はいまも続いているのだ。 (岩波書店 1100円)

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