「探偵小石は恋しない」森バジル著
「探偵小石は恋しない」森バジル著
書店で働き始めてから初めて聞く単語がある。中でも普通に生活して耳なじみがないのが「ゲラ」と「プルーフ」だ。ゲラとは我々お笑い芸人が最も愛するよく笑う人たちを指すゲラではない。出版社から届く発行前の書籍の原稿である。大体が大きめの紙に2ページ分印刷されており、何百枚もの紙の束が、クリップで留められている。これを我々はゲラと呼ぶのだ。
出版社が推したい新刊がある場合、書店に「ゲラでの先読みどうですか?」と打診し、書店員の感想を発売前に吸い上げ、いいものがあれば帯文やネットでそのコメントを載せる。書店員は読んだ上でどれぐらいの数その書籍を注文するか決める。しっかりとしたお仕事だ。ただ「お得に読める!」だけではない。ちなみに最初に出したもうひとつの単語「プルーフ」は女子が使っているメークのことではなくゲラが紙の束ではなく簡易的に本の形でとじられているもの。
私もゲラやプルーフを読ませてもらう機会が年に何回かある。慣れてるとはいえ、日々の合間に本を1冊読むのはなかなか時間がかかる。しかも注文書や感想は期日がある。そこそこせかされる読書になって大変なときもある。だが、私が働いている書店の上司は仕事以外のほとんどの時間を読書に使い、なんなら耳でオーディオブックを聞きながら別の書籍を読み両方理解している。この上司の本の目利きは凄く、働いてる書店グループや出版社の中でも一目置かれている。
今年読んだゲラ、プルーフの中で最も良かった小説が本書である。初めは浮気調査に乗り出す探偵と助手が出てくるコミカルで楽しい小説かと思いきや、途中から怒涛の展開と予想の裏切りが押し寄せてくる。合間に挟まれる古今東西ミステリー作品の小ネタも好感が持てた。ネタバレ厳禁なので内容の説明はこの辺で。著者の森バジルさんは新進気鋭で注目されていたがこの作品で明らかにもう1つ上のステージに上がっている。プルーフでの人気も非常に高く、特設サイトに厳選された書店員さんのコメントが載っている(ちなみに私のも載っている)。
私も、職場のスーパー上司も、ゲラを読んだ全国の書店員さんが今推しているミステリー、ぜひ。 (小学館 1870円)



















