「HIPS 機械仕掛けの箱舟」岡崎琢磨著
「HIPS 機械仕掛けの箱舟」岡崎琢磨著
書店で働いていると人に話すと「えー、本屋さんって楽そう~。レジでボーッと立ってるか、ハタキで本棚をポンポンするぐらいでしょ」と言ってくる人がたまにいる。マンガとかに出てくる町の書店はそんな印象だが、実際の書店はチェーン、個人店にかかわらず、皆さんの想像以上に忙しい。
朝、開店より前に勤務に入り、その日に出る雑誌や新刊、更に発注した本が入ってる段ボールやビニールを開封する(朝昼の2回荷物が来るお店もある)。更に女性誌など雑誌に付録が付いてる場合、それをビニール紐などで縛ったりするのも出版社でなく書店員がやっているのだ。更に荷物からお客さまの予約や注文で来た書籍を出し、保管する。これらの作業を終えてようやく開店。昨今は一番くじをやっている店舗も多く、くじのお客さまが朝から並んでいる日もある。大ブームになったマンガは予約も多いので抜き取りのミスがないよう気を使う。朝昼夜それぞれにレジのピークがあり、付けるブックカバーも自分たちで折って作る。また出版社に返品する書籍を段ボールに入れて運ぶのだが、この段ボールが物凄く重い。腰をやってしまった書店員を何人も見た。これらの作業の合間にそれぞれが担当しているジャンルの出版社さんとやりとりをして本を発注する。書店員はやること満載なのだ。なのに給料は高くなく、潰れていくお店も増えてきた。苦境の中で書店員は闘っているのだ。
そんな勤務中に目を引いたのが本書。作中に登場するHIPSという団体に入るとまとまった電子マネーが毎月振り込まれる。この団体に入る条件は「働かないこと」。働かずして生きていけるなんて最高だ! と私は思ったのだが、読み進めるとこの団体が日本で発足して以降さまざまな場所で事件が起きていく。なぜこの団体ができたのか、その背景には日本が抱える格差社会や政治の問題も入れ込んでおり、更に中のミステリーもかなり本格的で読みごたえがあった。連作短編集ならではの構成の良さも光っている。
私を含め働かずしてお金をもらいたい! と思ってる方は多いだろう。ぜひこの一冊を読んで、事件の謎と自分が住んでるこの日本の現状についても考えてほしい。
(光文社 1980円)