著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

公開日: 更新日:

「HIPS 機械仕掛けの箱舟」岡崎琢磨著

 書店で働いていると人に話すと「えー、本屋さんって楽そう~。レジでボーッと立ってるか、ハタキで本棚をポンポンするぐらいでしょ」と言ってくる人がたまにいる。マンガとかに出てくる町の書店はそんな印象だが、実際の書店はチェーン、個人店にかかわらず、皆さんの想像以上に忙しい。

 朝、開店より前に勤務に入り、その日に出る雑誌や新刊、更に発注した本が入ってる段ボールやビニールを開封する(朝昼の2回荷物が来るお店もある)。更に女性誌など雑誌に付録が付いてる場合、それをビニール紐などで縛ったりするのも出版社でなく書店員がやっているのだ。更に荷物からお客さまの予約や注文で来た書籍を出し、保管する。これらの作業を終えてようやく開店。昨今は一番くじをやっている店舗も多く、くじのお客さまが朝から並んでいる日もある。大ブームになったマンガは予約も多いので抜き取りのミスがないよう気を使う。朝昼夜それぞれにレジのピークがあり、付けるブックカバーも自分たちで折って作る。また出版社に返品する書籍を段ボールに入れて運ぶのだが、この段ボールが物凄く重い。腰をやってしまった書店員を何人も見た。これらの作業の合間にそれぞれが担当しているジャンルの出版社さんとやりとりをして本を発注する。書店員はやること満載なのだ。なのに給料は高くなく、潰れていくお店も増えてきた。苦境の中で書店員は闘っているのだ。

 そんな勤務中に目を引いたのが本書。作中に登場するHIPSという団体に入るとまとまった電子マネーが毎月振り込まれる。この団体に入る条件は「働かないこと」。働かずして生きていけるなんて最高だ! と私は思ったのだが、読み進めるとこの団体が日本で発足して以降さまざまな場所で事件が起きていく。なぜこの団体ができたのか、その背景には日本が抱える格差社会や政治の問題も入れ込んでおり、更に中のミステリーもかなり本格的で読みごたえがあった。連作短編集ならではの構成の良さも光っている。

 私を含め働かずしてお金をもらいたい! と思ってる方は多いだろう。ぜひこの一冊を読んで、事件の謎と自分が住んでるこの日本の現状についても考えてほしい。

(光文社 1980円)

【連載】書店員芸人カモシダせぶんの「いい本入ってますよ!」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    TBS「ラヴィット!」の“テコ入れ”に不評の嵐! グダグダぶりを楽しむ独自性損失で視聴者離れ加速危機

  2. 2

    「おい、おまえ、生意気なんだよ」 野村監督は俺の挨拶を“ガン無視”、暴れたろうかと考えた

  3. 3

    「オールスター感謝祭」で“ブチギレ説教” …島崎和歌子は今や「第2の和田アキ子」の域

  4. 4

    NHK朝ドラ「風、薫る」巻き返しを阻む“最大のネック”…見上愛&上坂樹里Wヒロインでも苦戦中

  5. 5

    米国とイランが2週間の停戦合意も日本は存在感ゼロ…お粗末すぎた高市外交を識者「完全失敗」とバッサリ

  1. 6

    スピードスケート引退・高木美帆にオランダが舌なめずり “王国復権の切り札”として白羽の矢

  2. 7

    高市政権が非情の“病人切り捨て”強行で大炎上! 高額療養費見直し「患者の意向に沿う」は真っ赤なウソ

  3. 8

    ブチ切れ高市首相が「誤報だ!」連発 メディア、官邸、自民党内…渡る政界は「敵ばかり」の自業自得

  4. 9

    JFAは森保一氏の“囲い込み”に必死 W杯後の「次の日本代表監督」のウワサが聞こえない謎解き

  5. 10

    『エニイ・タイム・アット・オール』1964年のジョンのギターを聴くだけで元気が出る