予想外の展開に手が止まらない!極上のサスペンス本特集

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「朽ちゆく庭」伊岡瞬著

 恐怖と緊張感に翻弄されつつページをどんどんめくってしまうのがサスペンス小説の魅力だ。今回は、3つの時代を行き来して繰り広げられる壮大なファミリーヒストリーや美術品を題材にしたアートサスペンスなど、最後の1ページまで目が離せない4作品を紹介する。

  ◇  ◇  ◇

「朽ちゆく庭」伊岡瞬著

 舞台は朝陽ヶ丘ニュータウンというかつてのセレブの街。バブル崩壊後から平均的所得の世帯が多くなり、“第1世代”のセレブたちは彼らに白い目を向けている。

 そこに引っ越してきたのが、主人公の山岸家。ゼネコン社員の夫・陽一と、税理士事務所で働く妻の裕実子、そして中学生の真佐也というごく平凡な3人家族だが、家庭は崩壊寸前だった。

 真佐也は裕実子が勧めた中学受験に失敗し、公立校に進学してから不登校に。多忙で留守がちな陽一は、「いつだっていろいろ考えている」という口癖の割には真佐也に無関心。2階に真佐也の気配を感じるだけでイライラが募る裕実子は、勤務先の上司と密会を重ねる始末だ。

 不穏な状況がこれでもかと描写される序盤を経て、幼い少女が関わる事件の発生をきっかけに物語の背景が暴かれていく。読後の後味の悪さは著者の真骨頂。しかしページをめくる手が止まらない、中毒性の高いサスペンスだ。

(集英社 1056円)

「英雄」真保裕一著

「英雄」真保裕一著

 昭和から平成、そして令和という3つの時代を貫く、壮大なサスペンスである。

「夜遅くに忙しなくドアがノックされて、否応もなく人生の扉が押し開かれた」という冒頭シーンから物語は始まる。叔母と弟、妹の4人で暮らす主人公の英美のもとに、ある夜2人の刑事が訪ねてくる。素行の悪さで手を焼いていた父がついに事件を起こしたのかと、うんざりする英美たち。ところが刑事は「英美さんの家族に関することで」と言う。

 実は英美だけ父親が異なるのだが、それが誰なのかを語らないまま、母の秋子は7年前に他界していた。刑事たちの話では、昨年ある男性が河川敷で射殺される事件が起きており、その人物は山藤ホールディングス創業者の南郷英雄、享年87。実は彼こそが英美の父親で、遺産相続が絡む中いまだ犯人が特定できていないというのだ。

 昭和25年まで遡る、実の父の壮絶な半生に触れることとなる英美。タイトルの「英雄」は何を意味するのか──。

(朝日新聞出版 1045円)

「贋品」浅沢英著

「贋品」浅沢英著

 佐村隆は、父の知人である山井青藍から贋作づくりの話を持ち掛けられる。10年ほど前、オランダの美術館から油彩画が強奪される事件が起きていた。モネやゴーギャンなどは行方不明となっているが、ピカソは日本の天心教という教団が極秘裏に入手しており、山井はこれを持ち出す算段を組んでいた。

 ピカソの市場価格は48億円。盗品はブラックマーケットで売買されるため、最新の3Dプリンターで贋作をつくることができれば、大儲けができるというのだ。佐村の父親は画商だったが、仕事に行き詰まり首をくくって死んだ。自身も起業に失敗して500万円の借金を抱えている。危険と知りつつも、佐村は贋作づくりに乗ることになる。

 ところが、中国人のメガコレクターである徐在は、自身をだました女の背骨をへし折り死体をアートとして飾るような危険人物だった。果たして、命がけの贋作づくりは成功するのか──。

(徳間書店 935円)

「黒い糸」染井為人著

「黒い糸」染井為人著

 結婚相談所で働く平山亜紀は、うんざりしながらその親子を見つめていた。我が子を溺愛する母親と、無関心な父親のもと、自由気ままに暮らす47歳の息子のために、結婚相手を探さなければならなかったためだ。

 悪いことは続くもので、顧客である39歳の江頭藤子が事務所に乗り込んでくる。相手から交際を断られたことが解せないとモンスタークレーマー化した彼女に対して、亜紀は言ってはならないひと言を放ってしまう。

「そんなだから、いくつになっても結婚できないのよ」

 近ごろは家庭でも不穏な出来事が連鎖している。小学6年生の息子・小太郎のクラスの女子児童が先月から行方不明となっており、保護者たちの間に不安が広がっていたのだ。担任の長谷川祐介が対応に追われる中、クラスの秀才である莉世は、ある保護者が犯人だと言い出し──。

 謎が謎を呼ぶ展開と、終盤で一気に伏線が回収される怒涛の展開に息をのむ、戦慄のサスペンス。

(KADOKAWA 990円)

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