読書の秋にぴったり!ミステリー文庫特集

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「雪華邸美術館の魔女」白川紺子著

 政治は筋書きのないドラマなどといわれるが、昨今は茶番ばかりを見せられ辟易させられる。それに比べて、上質のミステリーは、見事な構成とトリック、そして想像を裏切る展開で読者を飽きさせることがない。今週はそんな読書の秋にピッタリのミステリーを特集する。

  ◇  ◇  ◇

「雪華邸美術館の魔女」白川紺子著

 昭和30年。6歳のとき、空襲で母を失った戦災孤児の小百合は、自分が実は母だと思っていた女に赤ん坊のときにさらわれた元華族の資産家、雪宮家の娘だと知る。既に両親は亡く、小百合は雪宮家の当主をつとめる双子の姉・撫子と暮らすことに。御殿場の雪華邸と呼ばれる屋敷で対面した撫子や、執事の橘の態度はよそよそしく冷たく感じる。おまけに食事時の行儀作法や勉強を強要され、息苦しい。そんな中、小百合は屋敷の裏にある建物に興味を抱く。そこは祖父が集めた美術品を収蔵する美術館だった。

 美術館の2階には公開されていない「いわくつきのコレクション」があり、それらの品々は、持ち主が横死したなどの不吉な言い伝えがあるものばかりだという。

 ある日、撫子の知人の光子が訪ねてきて、結婚式に身につけたいのでどうしてもそのコレクションの中のセットジュエリーを貸して欲しいと言い出す。(「子爵夫人の再婚」)

 いわくつきの美術品を巡る連作ミステリー集。

(U-NEXT 880円)

「首切り島の一夜」歌野晶午著

「首切り島の一夜」歌野晶午著

 高校を卒業して40年、久我はかつての同級生と恩師の和田の総勢8人で修学旅行を再現する4泊5日の旅に出る。宴会中、久我は酔った勢いで修学旅行中に教師が一人一人殺されていく高校時代に書いた未完の小説の内容を告白。その翌日、8人は旅のハイライトである離島・弥陀華島に渡る。

 夜の宴会中、参加者の1人、野尻のスマホに自宅から電話がかかってくる。小学生の息子が同級生を刺して警察に補導されたという。高齢出産で授かった息子を両親の助けを借りて、女手一つで育ててきた野尻は、今すぐにでも島を出て駆け付けたい。しかし、あいにくの荒天で船が出ない。

 そんな中、久我が風呂場で何者かに殺される。翌朝、島を出ようとする野尻の所持品を調べた警察は、血に染まったタオルを見つける。

 8人の視点で仲間も知らないそれぞれの現在までの人生と抱える闇、そして事件の行方が語られる長編ミステリー。 

(講談社 1078円)

「うまたん」東川篤哉著

「うまたん」東川篤哉著

 房総半島の田舎町、登校中の高1・陽子の前にサラブレッドが現れた。牧場を営む陽子の家の近所の乗馬クラブで飼われているロックだった。陽子はタクシーを拾った気分でまたがるが、ロックは指示に従わず、わき道に入っていく。ロックの足が止まり、飛び下りた陽子は、近くに倒れている乗馬クラブの経営者・隆夫の死体を見つける。

 駐在所の中園の話では隆夫の額の傷は蹄鉄によるもので、ロックに殺された可能性があるという。姿を消したクラブの従業員の村上も怪しい。

 1週間後、再び訪ねてきた中園によると村上の行方はまだ分からないという。そのとき、現場近くの沼を「さらってみたら、どや?」とどこからともなく声が聞こえる。どうやら牧場で飼われている元競走馬のルイスが話しかけてきたようだが、その声は陽子にしか聞こえない。(「馬の耳に殺人」)

 関西弁を操る「安楽椅子探偵」のルイスが事件を次々と解決する連作集。

(PHP研究所 902円)

「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」大山誠一郎著

「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」大山誠一郎著

 休日、県警捜査1課の捜査員の僕は、商店街の「美谷時計店」を訪ねる。店は「アリバイ崩し」も請け負っており、僕は店主の時乃のおかげで何度も殺人容疑者の鉄壁のアリバイを崩してきた。

 約1カ月前、山奥のダム湖にガードレールの隙間から車が転落。当初は自殺が疑われたが、車のギアがニュートラルだったことから、殺人と断定される。被害者の資産家・藤村の自宅前のリサイクルブティックの店内に設置された防犯カメラを調べると、藤村の車は店が閉まる17時までは自宅に止まっていた。その事実から犯行時刻は18時から19時の間と思われる。

 しかし、容疑者の遺産相続人の甥・裕樹は、18時前から22時ころまで友人とマージャンをしていたと語り、鉄壁のアリバイがあった。(「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」)

 祖父から時計修理とともにアリバイ崩しを仕込まれた時乃が、さまざまな犯人のアリバイを鮮やかに崩す短編集。

(実業之日本社 814円)

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