「脳がないのにクラゲも眠る」粂和彦著

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「脳がないのにクラゲも眠る」粂和彦著

 従来、恒温動物である哺乳類と鳥類には、ヒトに似た睡眠があることが知られていた。ただ、同じ睡眠といっても多種多様。たとえば、イルカやクジラは海にすんでいるが肺呼吸が必要であるから、完全に眠ってしまうと呼吸ができなくなってしまう。そこで大脳の左右半分ずつ交互に休ませる「半球睡眠」をとることで泳ぎながら眠ることができる。

 また10日間3000キロ以上休まず飛び続ける渡り鳥のグンカンドリは、半球睡眠を行いつつも、一定時間熟睡しながら飛んでいたことが明らかになった。さらには、平均4秒の超マイクロスリープを1万回行うことで1日に11時間くらいの睡眠時間を確保しているヒゲペンギンという変わり種もいる。

 このように、睡眠は脳の休息に密接に関係するものと思われてきたが、2017年、脳(中枢神経系)を持たないサカサクラゲが眠っているとの報告がされ驚きを与えた。

 つまり生物の進化の過程上、脳より先に睡眠という行動が進化したと考えられる。それに伴い睡眠の定義も行動を基準とするものに改められた。動物が動かない状態には単に動きを止めている休息と睡眠の2つがあり、反応性の低下=覚醒閾値の低下や概日リズム(体内時計)による制御などいくつかの条件を満たすものを睡眠とした。

 睡眠が科学的に研究され始めたのは20世紀に入ってからで、1953年にレム睡眠(睡眠中でも脳が活動している状態)が発見され(その後タコやトカゲ、魚類にもレム睡眠があることが判明)、さらに分子生物学や実験技術の向上によって、これまで解明されなかったナルコレプシー(居眠り病)の原因遺伝子が発見され、睡眠研究が大きく進展していく。

 本書はそれら睡眠研究の歴史を具体的な実験例を紹介しながら解説する。とはいえ、睡眠に関する謎はいまだ多く、「意識」の誕生との関係も含め、今後の新たな発見が楽しみだ。 〈狸〉

(朝日新聞出版1980円)

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