口コミで評判ジワリ 「永い言い訳」に中年男が涙する理由
「ディア・ドクター」「夢売るふたり」など良作で知られる西川美和監督(42)の最新作「永い言い訳」が好評だ。映画興行ランキングでは10位スタートながら口コミで評判が拡大。女性監督の作品ながら、中年の男性客ほど滂沱の涙というから驚きだ。
主人公の本木雅弘(50)演じる売れっ子小説家は、妻をバス事故で失ったばかり。世間は彼を悲劇の主人公と同情するが、実は夫婦仲は冷え切っており、事故の瞬間も男は自宅で浮気相手と情事にふけっていた。そんな負い目で精神的に押しつぶされそうになった主人公が、同じ事故で最愛の妻を失ったトラック運転手の子供たちの世話をするうち、これまで見えなかった大切な何かに気づき始めるというストーリー。
■卓越した男性観察力
直木賞候補になった西川監督自身の小説を、自らの手で映画化した長編5作目。映画批評家の前田有一氏は彼女の映画の魅力をこう語る。
「男性キャラの内面描写がとにかくうまいんです。たとえば本作では、仕事で成功しながら子供ができず、徐々に妻との共通軸を失った主人公がひた隠す自信のなさを、容赦なく暴いていきます。彼女の監督作すべてに共通することですが、見ている男性はまるで隠し事を言い当てられたようなバツの悪さと、男の苦労を理解されたような安心感の間で翻弄され最後には泣かされる。西川監督はまだ42歳で、見た目はかわいらしい童顔美人ですが、中身はオヤジなんじゃないかと思うほど的確なオトコ描写をします」