81年ぶり名跡復活 右近改め「三代目 市川右團次」の実力
猿翁は門閥主義、血縁主義を打破し、一般家庭に生まれた子を門弟として歌舞伎役者に育て上げた点でも知られ、その筆頭が右近だった。猿翁の息子・香川照之は父子が絶縁していたので歌舞伎役者にはならず、甥の亀治郎も一門から独立していったので、一時は右近が四代目猿之助になるとの臆測もあった。だが12年に香川が歌舞伎界に入り中車を襲名、同時に亀治郎が四代目猿之助を襲名した。
本人の胸中は分からないが、「猿之助になるかもしれない」時期の右近は、猿翁の当たり役を継いで演じていても、どこか遠慮がちだった。しかし四代目が亀治郎に決まってからは、何かふっきれたのか、あるいは四代目や中車へのライバル心からか、主役を演じる際はもちろん、敵役・相手役の時のスケールが大きくなっていた。
猿翁と芸風が共通する右團次の名跡が空いていて、それを弟子の右近が継ぐことになったのは、収まるところに収まったといえる。本名に「右」という字があったのも、いまとなっては運命的だ。その右近の長男のタケル(本名)が、今回、同時に二代目右近となった。この新しい右近(6歳)も初舞台にして子役ながら二役と大活躍している(初お目見えは昨年6月)。
(作家・中川右介)