退職代行を使う若者に説教するオジサンこそ考えてほしい…「会社を辞めても何とかなる人」の共通項
「退職代行」が話題となる中、入社初日の昼休みに退職代行に連絡をした新入社員もいたらしい。退職代行については、「あなたを選んでくれた会社に対してはもう少し誠意を見せるべきだ」「人生の大事なことを他人任せにするなんて言語道断」などと否定的な意見もあるが、その人の人生なので外野は余計なことを言わないでいいと思う。その一方、いわゆる「五月病」も含めてさっさと会社を辞める若者に苦言を呈する中高年の対応もSNSで物議をかもす。
採用を決めた幹部社員、伴走した人事、周りの同僚や指導してくれた先輩、あるいはコネ入社の場合は紹介者などを困らせるほか、顔を潰すではないか! そんな正論が発せられる。さらに訓示好きのオジサンは「会社をすぐにやめるなんてもってのほかである。『石の上にも三年』ということばを今一度噛み締めてもらいたい」と説教しがちだ。
そんなオジサンにぜひ、振り返ってもらいたい。大抵の人は会社を辞めたいと考えたことが一度や二度はあるだろう。それでも踏みとどまるのは、辞めた場合に生活が成り立たないと不安だからだ。そんな経験から辞めそうな人や辞めた人には、「お前のためを思って……」なんて言うが、当人からすれば余計なお世話だろう。
■「情」を介した転職はゴロゴロ転がっている
以前会った人は1年目で会社を辞めた。その父は世界的な漫画家で、会社を辞めたからといって彼の生活が困窮することはない。大企業の創業者一族の御曹司もそうだろう。彼らからすると会社を辞めることなど屁みたいなものである。
“実家がとてつもなく太い人”はレアケースだとしても、実家が太くなくても案外会社をすぐ辞めてもなんとかなる。私の視点でなんとかなった人々を見ていると、共通項がある。それは、退職前の会社員期間ないしは学生時代に有力者から可愛がられている点だ。
志望していた会社で「なんか違うな」と感じたら、自分を可愛がってくれた人のことが頭に浮かぶ。だったらその人に次の道を相談すればいいか、という発想になるのだ。
この5年ほど付き合いのある40代男性のA氏は、勤務先の不動産会社で中間管理職として板挟みになっている辛い胸の内を、30年来の付き合いのある先輩に話した。その先輩は、地元で約300人の従業員を雇うグループ企業の社長で、「不動産勤務の2倍の給料で幹部にする」と言ってくれたというのだ。結局A氏は「今の社長には恩義があるので、まだ行けません」と伝えたが、次に転職を考えたときに好待遇で迎え入れてもらえる“手形”を得たのである。
かつて私の会社でアルバイトをしていた学生は、大手建材メーカーに入ったが、元来メディア系を志望していたため、1年ほどで転職の相談にやって来た。話を聞いた私は、自分の師匠ともいえる大手広告会社子会社の社長・B氏を紹介。するとB氏は、彼の地頭の良さを感じ取ったのか、同社が経営する書店兼バーの店長として引き抜いた。
この時、彼は「やっぱりメディア系をやりたいんです」と頼んできたから、私はB氏に引き合わせた。実は私がB氏と知り合ったのは、その大手広告会社の後輩だったからで、結局コネである。
私自身は4年でその会社を辞めて無職になったが、そんな時にB氏は「お前はヒマそうだから、オレの下で仕事をしろ」とフリーランスでの仕事をたくさん振ってくれた。それが現在のライター・編集者の仕事につながっていく。それとは別に、フリーとして初期の頃に日経BP社の仕事を得たのも、大学時代の同級生が同社で働いていたからである。
新卒採用や大手企業の中途採用では、プレゼン能力やこれまでの実績が重視されるが、「情」というものを介した転職はこの世の中、ゴロゴロ転がっている。それこそ、永田町の閣僚人事がそうではないか。
■捨てる神あれば拾う神あり
新しい総理大臣が誕生した時、これまでの人間関係を基に組閣をするのはこれまで毎度見てきた話だし、閣僚経験がない議員を温情で抜擢する、まさに浪花節的な人事がまかり通っている。
一般社会でもその傾向は当然あるわけで、私がこれまでフリーランスでなんとか25年間仕事が途絶えたことがなかったのは、過去の良好な人間関係があったからである。なので、会社をすぐに辞める若者は、無鉄砲に辞めているわけではなく、ある程度の勝算があるから辞めているのだ。
そして、これは若者に限った話ではなく、定年退職後の再雇用や、ヒマだからバイトでもしたい、といった時に仲の良い人を頼ると案外仕事をくれる。仕事に能力は重要だが、それ以上に周りから好かれることや、可愛げがあることの方が案外着実に仕事に結びついたりする。そういった意味で退職代行を使う若者や、五月病で辞める若者を過度に批判したり、心配したりする必要はない。むしろあなた自身のこれまでの人間関係を振り返り、スパッと辞められるかを考えてみるべきだろう。「捨てる神あれば拾う神あり」とはよく言ったものだ。
▽中川淳一郎(編集者・PRプランナー) 1973年生まれの編集者・PRプランナー。多数のウェブメディアの記事にかかわる。日刊ゲンダイ「週末オススメ本ミシュラン」担当。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『それってホントに「勝ち組」ですか?』など。


















