黒田福美さん 今は亡き韓国フォーク界の巨匠が遺した一枚

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新井英一は予定をキャンセルして参加

 とくに、新井さんは他のご予定があったにもかかわらず、それをキャンセルして参加してくださったんです。しかも、この時点で私はコンサートに何が必要なのかまったくわかっていなかったの。それを知った新井さんは音響の準備やライブに必要なことのすべてと、必要なスタッフまで用意してくださったんです。

 当日、準備していたわずかなお礼を受け取ってくださらないばかりか、渡された封筒には音響にかかる費用全額に相当するお金が入っていました。その男気とやさしさに感動しました。

 そもそもこの企画を立ち上げたきっかけは、私の写真展でした。渡韓するたびに、記録として撮りためたスナップを見たカメラマンが、私の写真には「韓国を愛してる気持ちがあふれています。だから十分面白い写真展ができると思う」とおっしゃって。その言葉に背中を押されて95年2月に銀座マリオンでやることになったんです。

 その準備をしていた1月17日、阪神・淡路大震災が起きてしまいました。その後、歌手の方たちがマイク一本、ギター一本を抱えて激励に行かれるんだけれども、俳優って何にもできないんだなぁと。そんな時、写真展ならできるんじゃないかと思いついたんです。

 写真展を大阪でも開催することは決定していたので、それなら神戸までは目と鼻の先だと思って……。私の写真展だけでは、あまりにも貧相だと考えていたら、イラストレーターの田中靖夫さんが「僕も何かしたいから」って、子供たちにTシャツプリント教室を開いてくださり、写真家の中村征夫さんは写真教室をやってくださいました。

 この写真を“秘蔵”というには他にも訳があります。実は大変、残念ですが、ドンジンさんが17年の8月28日、膀胱がんで亡くなったんです。70歳でした。このコンサートの模様は大阪の映像制作会社・光学堂さんのご厚意で映像に収められていました。

 そして、18年9月30日に、ドンジンさんの妹で音楽活動をしているチョ・ドンヒさんが東京の新大久保でコンサートを行った際に公開されました。その時にこの映像を見た日本のファンは「動いているチョ・ドンジンさんを見るのはこれが初めて」と驚くほど貴重なもの。なぜなら生前のドンジンさんは、メディアへの露出が極めて少ない方だったからです。

 ドンジンさんが亡くなったことは、大変、悲しいことではありましたが、二十数年もの時を経て日の目を見ることができて本当によかったと思います。 (取材・文=李京榮)

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