押井守監督「ジブリにボロクソ言えるのは私だけじゃないかと思ったんです」

公開日: 更新日:

「うる星やつら」シリーズや、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」で知られる押井守監督(70)が、「誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版」(講談社/東京ニュース通信社)を出版した。忖度一切ナシ、長年にわたって親交のある押井監督だからこそわかるジブリの抱える矛盾と映画観を語った。

  ◇  ◇  ◇

 カンヌ映画祭で「竜とそばかすの姫」が上映されるなど、日本のアニメが世界的に再注目されている。

「この前、細田君(細田守監督)の『時をかける少女』は頭の15分は見たよ。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『シン・エヴァンゲリオン』の話は聞いているけど、新作を見てないな。(スタジオジブリ代表・総合プロデューサーの)鈴木敏夫とも語ったことがあるんだけど、映画が当たるってどういうことなのかは既にわかってるし、すでに一生分の映画見ているから、頭でも途中でも3分見ればどんな作品か、監督が作った動機がわかる。だから年数が経って淘汰されてからで十分。新作を見るのは効率が悪い」

 映画が当たるのがわかるとは?

「アニメファンのガチ勢なんて10万人もいないでしょう。鈴木敏夫はリアリストで100万人までは作品の力、それ以上は社会現象だって言っていた。私の作品でも実証済みだけど、お客の求めるものを作っても、自分のやりたいことをやっても動員数にさほど変わりはない。その先を超えるのが情報、配給の力というわけ」

 社会現象とは?

「はやっているから参加したいっていうその他大勢がいるということ。年に1、2作品そういうブームがあって『カメラを止めるな』もそのひとつ。上田監督はいつも通り仲間を集めて作っているだけで『なんでヒットしたのかわからないけど、次の仕事が来るからうれしい』って言ってた。ある意味ジブリもそう。でも社会現象じゃなくて、全て作品のチカラだと信じているのが宮崎駿なんだよね」

 なぜジブリを語ろうと?

「宮さんとは映画観やどんなものを作りたいとかウンザリするほど語り合っているんだけど、言ってることと実際作った作品に矛盾がある。それに本人も気がついていないんだよね。ところがジブリは1つのジャンルになり、誰も指摘しない。ボロクソ言えるのは私だけじゃないかと思ったんです。私には珍しくジブリ全作品を見て、公平にしゃべった。映画監督というのは忖度の対象と度合いで大きく変わる、宮さんの忖度がどこに向けられているか、身近にいるからよくわかるから、事細かなところまで論じています」

 増補版では鈴木氏との往復書簡や対談なども加えたそう。

鈴木敏夫とは手紙のやりとりすらまともにしたことがないから中身的には面白かったかな。誰かの作品を語るってことは自分を語ることだからね、手間暇かけています。宮崎駿についてこれ以上細部について述べた本は出ないと思うので、一度手に取って、ジブリ映画をもう一度見てもらいたいですね」

(取材・文=岩渕景子/日刊ゲンダイ

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  3. 3

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  4. 4

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督

  5. 5

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  1. 6

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  2. 7

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  3. 8

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  4. 9

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  5. 10

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い