東出昌大「三好達治が別れた妻子に仕送りしたかった気持ちは、もちろんボクには分かる」

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9日公開映画「天上の花」主演

 ──「天上の花」に話を戻しますが、役作りで苦労した点はありましたか。

 時代背景や三好達治と萩原朔太郎の詩について勉強をしました。達治の詩を読み慣れていなかったので意味が分からないことも多く、なぜこんな詩を達治が書いたのかについて勉強しました。助監督さんが熱心に資料を集めてくれて、とても助かりましたが、自分なりに詩を解釈できるまでに数カ月かかりました。達治が自分で自分の顔を思い切り殴るシーンがあって、一発勝負だったので緊張しました。あんなに本気で自分の顔を殴ることは後にも先にもないでしょうね。「絶対顔が腫れると思うので」と監督とメークさんに伝えておいたら、カットがかかった瞬間に氷嚢をどっさり持ってきてくれました。それでもやっぱり顔が腫れましたね。

 ──達治が慶子の目を盗んで離婚した妻子に仕送りする場面がありました。

 役者って、あらゆる人生経験が使えるし、あらゆることが芝居のヒントになり得ると思います。だからもちろん、達治が別れた妻子に仕送りをしたかった気持ちはボクには分かる。ただ、感情は数値化できないし、言葉選びがとても難しいんですが、ボクの個人的な経験だけじゃなくて、人の話を聞いて納得して吸収したこととか、そうしたことの積み重ねですね。そこに東出の私生活を投影させることはありません。

 ──作品を見たあとにその役柄と東出さんを重ねてしまうような感想も聞きます。

 これは完全に手前みそになってしまいますが、昨年公開されたNetflix映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」で「このチャラい役、東出の本性を見た気がする」と言われた時も、心の中でガッツポーズしていました。お芝居をご覧になった観客の方が「こういうやつに違いない」と思ってくださるということは、その人物として生きられたということの裏付けのように感じますので、「達治と東出のキャラってかぶるね」と言っていただけたら、むしろ喜ばしいです。

■7、8年前にスマホはやめた

 ──スマホの待ち受け画面をめぐる報道もありましたが……。

 ボクは7、8年前にスマホをやめてからずっとガラケーで、今はスマホを持っていません。SNSで友人がものすごくネットで叩かれたことがあって、その人の名前をつい見てしまう自分に気づき、怖くなってスマホをやめました。今はSNSに費やしていた時間を読書などに充てています。ただ、最近は台本がスマホに送られてくることがほとんど。タブレットは使っていますが、少し役者の仕事に支障があるような感じもしますね(笑)。現代人は皆、利便性を求めているのに、どんどん生きづらくなっている。ボクはあえて時代と逆行してみようかなと思う今日この頃です。

 ──さまざまな臆測が出たりする中でも役者を続けられるのはなぜですか。

 やはり最低限お金を稼がないといけませんからね。役者の仕事をいただけたら続けるし、いただけなければ続けられないというすごくシンプルな話です。それと、ボクはいきなり週刊誌に直撃されたとしても、それほど気にならないというか……。臆測で事実と違うことを書かれるよりはマシですね。週刊誌の記者とも腹を割って話をしてみると、結構仲良くなれたりもするのです。「人を信用し過ぎない方がいいですよ」と親切にアドバイスをくれた記者もいました。

 ──やはり、役者としてカンヌ国際映画祭のレッドカーペットをもう一度歩きたいという野望はあるんですか。

 いやー、そんな野望は全然ありません(笑)。いただいた仕事の中で最善を尽くすだけです。ただ、この先、役者の仕事があれば狩猟と共に一生続けていきたいですね。

(聞き手=岩瀬耕太郎/日刊ゲンダイ

東出昌大(ひがしで・まさひろ)1988年、埼玉県生まれ。2012年、映画「桐島、部活やめるってよ」で俳優デビュー。13年にNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」「ごちそうさん」に2作連続で出演。主演作「寝ても覚めても」が第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。

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