著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

映画「ホイットニー・ヒューストン」字幕監修から見えたオモテとウラの魅力

公開日: 更新日:

 2012年に48歳の若さで非業の死を遂げた天才女性歌手の人生を巧みに描いて話題の映画ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』が、クリスマス・ウィークエンドの今週末に世界一斉公開される。全編で使用される歌声はすべてホイットニー本人と聞けば、『ボヘミアン・ラプソディ』を想起する方もいるのでは。じつは脚本のアンソニー・マクカーテンはまさに“ボヘラプ”を書いた人物なのだ。

 ぼくはこの映画の字幕監修を務めた。主人公ホイットニーをはじめとする登場人物たちと直接会って仕事をした経験を見込まれてのご依頼。今回はかぎられた字数のなかで、作品のオモテとウラの魅力を語りたい。

 63年生まれのホイットニーが世に出たのは85年のこと。大スター、ディオンヌ・ワーウィックの従妹である彼女のデビューは、業界の大立者クライヴ・デイヴィスの肝入りだった。デイヴィスが経営するアリスレコードには、ディオンヌに加えて女王アレサ・フランクリンも所属していたし、ホイットニーの母親はアレサのコーラス隊の中心メンバーという太い縁もあった。とはいえヒューストン家は裕福でもなく、両親の不和に起因する「ふしあわせな家」の記憶は生涯にわたりホイットニーを苦しめるのだが。

 デビューから破竹の勢いで駆け抜け、永遠に破られることがないと思われていたビートルズの6曲連続全米首位の記録もあっさりと塗り替えたホイットニー。その歌声には、たんに「歌がうまい」を超えて「きっと歌のうまさってこういうことだよね」と新基準を更新していくような凄みがあった。有史以来、黒人女性がひとりとして経験したことのなかった、人種や民族を越境するほどの巨大な成功を彼女は掴んだのである。

 92年の暮れ(あれから何と30年!)には、初主演映画『ボディガード』が公開され、主題歌とあわせて世界的な成功を収めたことも忘れがたい。同年には彼女と伍するほどの大スターだったボビー・ブラウンと結婚、翌93年には女児を出産して母親になった。

 天才ホイットニーの前ではこの世に不可能はない、と思えるほど。長嶋有の名作を引用して「猛スピードで母は」と表現したくなる完璧なキャリア構築には、策士クライヴ・デイヴィスの確かな采配の存在を痛感したものだし、どこか生き急ぐ印象さえ感じられた。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    悠仁さま筑波大進学で起こる“ロイヤルフィーバー”…自宅から1時間半も皇族初「東大卒」断念の納得感

  2. 2

    中山美穂さん急死、自宅浴槽内に座り前のめり状態で…大好きだった“にぎやかな酒”、ヒートショックの可能性も

  3. 3

    辻仁成は「寝耳に水」 中山美穂離婚報道の“舞台裏”

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  1. 6

    中山美穂さん急逝「加齢の悩み」吐露する飾らなさで好感度アップ…“妹的存在”芸人もSNSに悲痛投稿

  2. 7

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  3. 8

    【独自】急死の中山美穂さん“育ての親”が今朝明かしたデビュー秘話…「両親に立派な家を建ててあげたい!」

  4. 9

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  5. 10

    紅白出演をソデにした旧ジャニーズ痛恨の“判断ミス”…NHKに出たい若手タレントが大量退所危機

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?