『アンジーのBARで逢いましょう』御年91歳、草笛光子演じる謎の老女がもたらした「幸福の余韻」

公開日: 更新日:

91歳で主演を張る草笛光子の健在ぶりは尊敬に値する

 それにしても草笛光子は美しい。1933年生まれで、今年の10月に92歳を迎えるが、ときにがらっぱちな物言いで周囲を圧倒しながら実は弱者に優しい老女を熱演。かわいい表情を披露する。美容院を訪ねて金魚鉢を覗き込む顔のアップはまるで美少女アイドルだ。このシリーズが続けば、草笛光子は認知症になるひまもないだろう。

 草笛と同様に1930年前後の生まれで存命の女優では山本富士子(31年12月生まれ)と若尾文子(33年11月生まれ)がいるが、2人ともこのところ作品での露出が少ない。そうした中、草笛は91歳で主演を張っているわけだ。まさに孤軍奮闘。人生100年時代とはいえ、その健在ぶりは尊敬に値する。

 そのベテランは劇中でこんなセリフをしゃべっている。

「一番怖いのが人間よ」

「人間、まともなものを食べないとダメよ」

「男は無口がいいのよ」

「生きるってのは難しいことよ。面倒くさいし、ややこしいし……」

「私ね、力道山と食事したことがあるの。私のタイプじゃなかったけど」

 同じセリフでも92歳の女優が語ると説得力が増すから不思議だ。

 草笛は本作についてこうコメントしている。

「この映画は不思議な映画です。風が吹くように現れた得体の知れない女が出会った人の人生をそっと変えてしまいます。いつもは台本をいただくと『さて、どう演じようか』と悩むことが多い私ですが、この映画は珍しく肩に力が入らず、自然に柔らかく演じることができました」

 このコメントのとおり、草笛が撮影を楽しんでいる様子がスクリーンから伝わってくる。だからコミカルなエンディングが幸福の余韻をもたらすのだ。宣伝文句どおりの「幸せなおとぎ話」。「このばあさんはどんな底力を秘めているのか。続編を見たい」と思ったのは筆者だけではないだろう。
(配給:NAKACHIKA PICTURES)

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず